toy box



珊瑚の中の海



カーテンから漏れた月明かりすら眩しくて、柔らかな空気に息を吐く。青白い世界の中で、揺れた金糸にそっと触れれば、大袈裟にぴくりと震えた肩を撫でて、
「サボ。」
と掠れた声で名前を呼んだ。
「エース?」
怯えたようないつもより少しだけ高い声に、さらりと腕に落ちた細い肩紐すら愛おしく思われて。恋人と共に映る世界、全てがレース細工のように尊く美しくて。
陶器のような頬を撫でて、桜色の唇を重ねる。熱い口内を貪りながら、優しく後頭部に手を添えてするすると落とせば、脇腹のラインをなぞって。純白のキャミソールに潜り込めば、柔らかな膨らみを手のひらで包む。
踊るように絡めた舌に、鼻から零れた吐息が熱くなったのがわかれば、ゆっくりと宝石を扱うように丁寧に軽い身体をシーツに沈めた。

冷たい風を招く窓をぱたんと閉めれば、外の波音が遠くなった室内はまるで深海。薄い布越しに漏れた夜空を映した空気は、深い蒼色。波打つふたりの髪は、甘い動きに合わせて揺れ動いて、涙の溜まった宝石はまるで海を集め固めたように穏やかで柔らか。
「サボ。」
もう一度呼んだ名に、返事はなくて。それでも引き寄せ離そうとしない腕に唇を重ねて、柔らかな下腹部を優しく撫でる。
そのまま滑らせた両手で、穢れのない腿裏を撫で上げれば、ぴとりと合わせた腰が布越しながらもしっとりと誘う。
きゅうっと背中に回された白い脚は人魚の尾鰭を思わせて、揺れる金色の髪は海底のコインのよう。それに隠れて艶めく柔らかな海が恋しくて、そっと唇を離して珊瑚色の頬に指を伸ばせば、ほわりと溶けた空気が急に固くなって。
「や、だっ…。」
と美しい恋人に手首が掴まれる。
俯くように逸らされた視線に、泣きそうな表情。なんとなくわかってはいるものの、こちらに向けられた右耳にそっと髪を掛けて、甘い声で囁いてみる。
「これ以上は、いやか?」
自分でも意地が悪いと思いながらも、可愛い人の反応が見たくて。とびきり熱く、相手が好きな声音で告げる。
「サボがいやなら、もうしない。」
わざと身体を起こして眉を下げて見せれば、煌めいた瞳が真ん丸に開いて、赤く色付いた頬で涙が溢れるのを必死で堪えているのがわかって。
「ちがう。ちがう、から…。」
そう伸びてきた手首を掴んで鼻先に口付ければ、腰に回された脚に力がこもって、さらに身体が密着する。
「なら、ちゃんと話せよ。」
なんて覗いた瞳に微笑めば、長い睫毛が揺れる。
「傷を、見せたく、なくて。だから。」
真っ白な肌に桃色に引きつった火傷痕。並んで歩く度、左側を選ぶその行為に気付かないほど鈍感ではなくて。それでも、口に出して告げない相手には何故だかもやもやして。
「エースがこんなこと、気にしないのは、わかってる。でも、すきな、大切な人には、綺麗な自分を見て欲しくて。」
珍しくもごもごと言い澱む口元が愛おしくて、細い手首を離した両手で頬を包んで、真っ直ぐに瞳を合わせる。優しく触れた親指で、艶のある傷跡を撫でて髪をそっと掻き上げれば、その美しい左眼にキスをして。
「綺麗だ。」
そう、呟いた。

ぽろぽろと溢れた雫に、嗚咽を漏らす喉。初めてみる幼い反応に、ぎゅうっと抱き締めて笑ってしまう。そっと身体を起こして、背中を撫でて。
「おれはどんなサボもすきだ。サボがすきだ。」
そう耳元でゆっくりと伝えて、苦笑しながら止まらない涙を唇で吸う。
何度も過ごしたはずのベッドの上が、何故だか初めて来た場所のように思われて。今までの行為が全て、この瞬間のためのものだったように感じられて。
心の底から愛おしくて、ずっとずっと抱えていたのだろう不安を、優しく静かな空気に溶かした。

「続き、してもいいか?」
ようやく落ち着いた呼吸を聞きながら、星屑を纏った髪を撫でれば、こくんと素直に頷く可愛い恋人。
水の軌跡を残した頬を両手で包んで瞳を合わせば、ふたりで一緒にベッドで溺れた。




こんなに静かなふたりの夜は、珊瑚の色に誓いましょう。








2017.11.12
その色は、貴方の心を見せる色。





Back



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -