Titel



最低でいて最高の、

(ZL←Law)


ひんやりとした夜に、月がふわりと光を放つ。
星のない空の真ん中、どろりと溶けそうに柔らかな光。それがまるで夢の中のようで、パタパタと駆けてくる人物に意識が引かれる。

「トラ男!まだ起きてんか?」
そう笑いかける愛しい人に、深く被った帽子のつばに顔を隠せば、困ったようにしゃがみ覗き込む真ん丸な大きな瞳。
「夜食あるぞ?」
なんて、近付いた艶めく桃色の唇が恋しくて。もっと此方へなんて腕に手を掛ければ、ぱっと見開いた瞳に揺れる黒髪。
先程まで逆光で気付かなかった白い顎にはつまみ食いしたらしい、米粒が付いていて。
「パンでは、ないみたいだな。」
と熱っぽかった空気が一気に解けて、苦笑が漏れた。

何事にもまっすぐな瞳がすきで。求めるものに伸ばされる手が尊くて。此方に向けられる言葉に心が跳ねる。
いつの間にか、傍に居なくては不安になってしまった存在と、これだけ近い距離にいる。その事実が不思議で、それでいてやけに現実的で。

同盟を組んで、数日。
その短期間に近付いた距離は、自分の想像を遥かに超えるもので。ぴとりと胸に押し当てられた頬の熱が心地いい。
顎先についた米粒を摘んで、口に含めば仄かな甘味が広がって鼻を抜ける。
「なんで、わかるんだ?」
とキラキラと輝く宝石のような瞳があまりに幼くて、堪らず細い腰に腕を回して引き寄せた。
「どうしてだろうな。」
そう惚けてみせれば、ぷくりと膨らんだ頬に突き出した唇。
嗚呼、なんて近いのだろう。そう手を伸ばせば、


「ルフィ。」

と響く低く熱い声。
月の中、凛と立つ瞳はギラリと鋭く光って。名を呼ぶその声に奪われるように、可愛い存在が腕からスルリと抜けて、空気が冷たく重くなる。
「ゾロ…!」
そう愛おしげに向けられた言葉に、幸せそうに響いた笑い声。少し身を屈めて、こつんと合わせられた額が恨めしくて。
返答することなく、見せつけるように重なった唇に、月明かりに隠された表情はきっとあまりに穏やかで。立ち入る隙などありはしなくて。
上書きするように、そっと腰を抱き寄せる太い腕に、自ら背中に回される白い指先。

「お前は外で寝るのか?」
とやっと尋ねてきた表情は見えないけれど、きっと笑っているのだろうと思えて。

「ああ、ここが1番落ち着くんだ。」

そう、離れた位置で2人の影にそっと告げる。




同盟相手の船の上。
近いようで遠い、この距離が、きっと自分にはぴったりで。

眩しいその人に届きはしないのだと、思い知るにはきっと、わかりやすい場所。

そう、ここはきっと、愛を諦めるには、




最低でいて最高の、








2017.06.16
最悪にして、最愛の距離。








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(Thenks/つぶやくリッタのくちびるを、)





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