Not ZL



甘い愛を吐く苦い唇


隣を歩く恋人の瞳が映すのは、擦れ違い様、甘い香りを纏い踊るように駆ける、スラリと綺麗なお姫様。


「あー、重かった!」
と荷物を降ろして、息を吐けば
「付き合わせて悪かったな。」
なんて、サンジの珍しくも優しい声。
「悪いと思うなら、おやつでも作ってくれよ。」
と唇を尖らせれば、仕方ないなと笑う甘い表情。

言葉にしてはやらないが、こんな風にふたりで過ごす時間は楽しい。サンジが余所見をしないから。

「何が食いたい?」
買ってきたばかりの果物を冷蔵庫に詰めながら尋ねる、その背中が愛しくて、
「お前の作るもんなら、何でもいい。」
と素直に返してみる。
シャツに隠れた肩が僅かに震えて、顔は見せずとも料理人として、恋人として、喜んでいることが見えて、何故だか可笑しくて。

「甘いものがいいのか、辛いものがいいのかぐらい、あるだろ?」
そう、悪態をつきながらも、手際良く並べられていく食材に食器たち。一連の動作が全て、ダンスのように滑らかで美しくて。
キッチンという名の舞台を独り占め出来る特等席が、自分だけのものであることの嬉しさと心地良さに、ほっとする。

「甘いのが食いたい!あと、チョコレートとアイスが入ってたら完璧だな!」
子供みたいに告げて、満足げに机に頬杖をつけば、金色の髪がさらりと揺れて。

「じゃあ、ナミさんの口にも合うように、オレンジジャムも入れて…」
なんて、ふわりと軽い独り言が耳について。


ぴしゃりと心が閉まる音がした。

「やっぱ、おれ、いらねェ。」
立ち上がって、相手に背を向ける。

普段なら気にならないはずのサンジの一言。
女好きの恋人のいつもと変わらぬ呟き。
それでも、なんだか今日はもやもやして。

「ナミの為だけに、作ればいいだろ。おれの好みなんて聞かなくたって。」
そう、震えた声で告げて。
「可愛いって思う奴の為に、作ってやればいい!」
ぽろぽろと落ちる涙を隠すように俯いたって、何故だか足が動かなくて。その場に立ち尽くす。

嗚呼、なんて格好悪いんだろう。

「おれは、」
心がジクジクと痛んで、胸元をぎゅうっと握り締めれば、
「おれは、お前の、」
小さな小さな声で、ポロリと言葉を吐き出した。


「おれは、お前の視線の先に居たい、だけなのに。」


瞬時、強く抱き締められた背中に、
「愛してる。」
甘く耳に響く、低い声。
密着した体温が熱くて、そっと向き合うように身体を回されて。絡む視線が、胸をキュウと締め付けて。

「放せよ。」
と視線を逸らして、相手の肩を押せば、
「もっと、可愛い顔、見せろよ。」
なんて、顎を掴まれて唇を奪われた。

くらくらするほどの体温に、苦い煙草の香り。
そっと離れた口元で、もう一度
「愛してる。」
と呟かれて。

「ズルい。お前は、いつも、ズルい。」
ぼろぼろと止まらぬ涙を拭われながら、何度も繰り返せば、ぽんぽんと背中をあやすように撫でられて。
「おれはな、ウソップ。お前はおれの傍に居るって安心してるんだ。」
優しく頬を撫でる指先が、そっと髪を耳に掛けて。
「でも、おれの思違いだった?」

そう、泣きそうなほどに優しい表情がズルい、なんて、掠れた声では言えなくて。

白い首筋に腕を回して、深く深くキスをした。
どうせ、懲りずに目移りする恋人を、今だけでも独り占めしたくて。

テーブルに押し倒された身体から、ふわりと力を手離して、
「もっと、愛して。」
そう、強請るように囁いた。








2016.04.30
#サンウソ深夜の一時間らくがき大会「やきもち」










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