Not ZL



メロンソーダ記念日


カレンダーの丸いしるしを見て小さく微笑む。


「なァ、今日はあそこにしよう!」
そうエースが指さした先にある、洒落たカフェ。
「新しい店だな。」
店前の立て看板にはルフィが好きそうな甘い飲み物のイラストが添えられていて。
「エース!サボー!まってくれよー!」
幼い声で名を呼ぶその声に、仕方ないなと溜息をつくエースが可愛い弟を想ってこの店を選んだのだろうとわかれば、なんだか可笑しくて。こちらもつられて息を零した。

ぱちぱちと揺らめく緑の海に浮かぶのは、白く丸いアイスクリーム。ちょこんと飾られたサクランボに輝かせた真っ黒な瞳は煌めいて揺れる。
「すげー!」
硝子のグラスに刺さったストローに触れた指先は小さくて、愛おしいなとふたり瞳が細まる。
「ただジュースにアイスが乗ってるだけだろ。」
しゅわしゅわと音を立てるメロンソーダに、氷に触れてさくりとしたバニラアイスを舌に乗せれば、それだけで3人には夢のようで。大人ぶっていたはずの自分もエースも、瞳の奥をきらり瞬かせた。
夏の匂いを含んだ風が開かれた窓からさらりと吹いて、黒と金の髪を撫でる。懐かしいと言うには幼すぎるのに、なんだか何処かに誘われるような、優しい心地よさと包み込むような甘すぎる快楽。
夕方の計画を立てながら、氷の残ったグラスを混ぜて、からんという涼しげな音に静かに微笑む。
「だから、そのやり方じゃ無理だっていってんだろ。」
不機嫌に尖る唇に、
「だってよー。」
さらに子供っぽく膨らんだ桃色の頬。
「まあまあ。」
ふたりの肩を叩いて、ふと視界に入ったそれは、余りにそっくりで。
「帰ろう。一緒に。」
堪らなく愛おしくて幸せだと、にっと笑った。


ふわりと開いた瞳に映るのは、昨日と変わらぬ真っ白な天井。嗚呼、昔の夢をみていたのか。そう吐息をついて身体を起こせば、壁にかけたカレンダーに赤い丸印。
幼いあの頃には、毎日が目まぐるしくて、今日が何日かなんて気にもとめなかったのに。脳裏に満ちた過去の思い出に、洒落た立て看板に描かれた飾り文字の日付は鮮やかで。帽子を手に立ち上がれば、部屋を抜け外に向かう。
「出掛けてくる。」
誰にともなく呟けば、とんと青い夏の近い空に跳んだ。


尖らせた唇に、膨らんだ頬。それだけで、どちらも子供ぽくて笑ってしまうのに。ふたりのグラスに残ったストローの先は同じように噛まれてよれて、くたりと垂れて。
「似た者兄弟だな。」
心の中で呟いて、笑った日を胸に。

弟目指し飛び上がった空の中、指先の炎をそっと見つめた。









2019.06.02
何でもない日が特別すぎて。

言葉パレット(1-8)「カレンダー」「ストロー」「しるし」
#言葉リストからリクエストされた番号の言葉を使って小説を書く




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