Not ZL



初雪に寄せて


愛しい笑顔が溶けて。
甘く甘く、舌に広がる。


「トラ男!みてみろ!」
と明るい声がした方に視線をやれば、楽しげに駆けてくる恋人に、皿の上で揺れる白い物体。読みかけの書物を机に伏せれば、
「おれが作ったんだぞ。」
なんて、えへんと張った胸に合わせて香る匂いは、甘ったるいプディング。
不器用な相手が1人でやったとは思えなくて、そっとテーブルの上のデザートを眺めれば、ふと気付いたように微笑んで、
「仕上げが、お前か。」
と声を漏らした。

とろりとしたキャラメルに、卵たっぷりのプリンは形もよくて美味しそう。添えられた果物の位置も、ソースの模様もプロ仕様。そう思えば、大量に掛けられた粉砂糖が際だって不自然で。
汚れた手で擦ったのだろう相手の頬の白い跡が何よりの証拠。

「おいしくなぁれって魔法の粉をとんとんしたんだ!」
そう煌めく瞳が愛おしくて、誇らしげに鼻から漏れる息に少量の白い魔法が舞った。

子供のようなその様子が愛らしくて、そっと腰を抱き寄せて柔らかな頬に触れれば、部屋の空気が熱くなって。
「トラ男・・・?」
名を呼ぶ声が甘みを帯びる。
プディングのようにふわりとした頬についた粉砂糖を、そっと舐めとって、
「甘いな。」
と零した唇が艶めいて、細まった瞳で視線を絡ませた。


冷たい風の吹く甲板とは違い、ふたりの過ごす部屋の中は温かで。幼子のように熱い恋人の肌に触れれば、心が静かに燃えた。

「雪、みたいだろ?」
乱れた衣服を整えながら小さく笑う声に、運んできたままの皿を見れば、以前話していた相手の言葉を思い出して。
「お前がすきな、雪だな。」
そう、前髪を掻き上げて、白い額に口付ける。

先程よりも暗くなった空を映した硝子窓を背に、くすくす溢れた愛しい音。
「うん!トラ男の次にすきな雪だ!」


寒い寒い雪降る夜に凍り付いてしまった愛しいと想う心を、蘇らせてくれたのは、きっと、この何にも変えられない笑顔で。
「おれも、すきだ。」
どちらがとも取れる、逃げ道を残した言葉に、
「知ってるぞ。」
なんて。


静かに抱き締め合うふたりの影に、純白の魔法がちらちら舞った。




それは、それは、あまりに愛おしい初めての雪。








2016.10.29
初雪の中、ふたりで踊って、笑って、転ぶ。

Happey birthday to Nepoさん!!





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