Not ZL



白蝶貝の首輪


真っ白なこの想いは、いつか、君に届くのだろうか。


なんでもない、退屈な午後。
ブルックのバイオリンの音を掻き消すように、騒がしいルフィとチョッパーの声に、カシャカシャと鳴るゾロのトレーニング器具の音。甲板まで香ってくる甘い匂いはきっと、サンジが女性陣のために作ったとっておきのデザート。
「ナミさん〜!ロビンちゃ〜ん!!」
という蕩けた声に、ほらな、なんて出た溜息に自分で苦笑する。
仲間と離れて、2年。その長い時間の中、子供じみた観察能力は格段に上がったようで、意識して覇気を使うことなく色々なことを感じ取れるようになっていた。元々、心配性な性格に相まって、2年後の恋人の絞まりなさが、こんなにも苦しいなんて、きっと以前には想像すらしなかっただろう。

首に掛けていたイヤーマフを耳元になおせば、もう一度、溜息を吐いて、そっと甲板を後にする。
こういう時は創作に限る、そう心で呟けば、ガラクタ箱という名の宝物入れを覗く。変わった形のボタンに、大きな植物の種、様々な種類のネジに、ダイヤルの中に紛れた真っ白に輝く美しい貝殻。
「白蝶貝の仲間か?」
導かれるように腕を伸ばして、晴れた日の水面のように瞬く貝を手に取った。
つるんとした手触りに、不思議な煌きが心を掴んで。あの優しい笑みに、柔らかな声を思い出す。
瞬時に沸いた意欲に作業場に座り込めば、作業用のゴーグルをつけ、美しい貝を思いのままに彫り磨く。

自分が着けるには上品すぎる素材に、女性に贈るには不釣り合いな髑髏のマークを象って。
短めの黒い革紐に金具をつけて、完成まであと少しの装飾を見つめる。
勢いだけで形にしたそれの、滑らかに磨いた背面をそっと撫でて、
「これくらい、気付かれないよな。」
躊躇いがちに、刃を近づけた。


昼の賑やかさが嘘のように静かな夜。
船内で聞こえるのは、クルーのいびきとキッチンから響く仕込みの音だけ。
水を飲みに向かうふりをしてキッチンに向かえば、あの愛おしい料理人の背中が見えて。
「今、手が離せないんだ。寝る前のキスなら少し待ってくれるか?」
なんて、振り向くことなく紡がれる甘い言葉。
海に閉ざされた船内で、ふたりきりになれるのは、決まって静かな夜のキッチン。
今夜もどうせ、甘えにきたのだろうと恋人は思っているに違いない。
「サンジ。」
そっと、名前を呼んで後ろから抱き着けば、思ったよりも弱々しい声。
「…何かあったのか?」
と火を止めようとする恋人の背中に顔を埋めて、
「なんでもない。」
そう、小さく溜息を吐いた。

毎日、毎日、同じ繰り返し。
女性に向けられる艶っぽい想い人の言動を、おれはただ見つめるだけ。

「なんでも、ないんだ。」
醜い嫉妬は、自分だけが知っていればいいことで。わざわざ話す必要なくて。

「…ウソップ。」
困ったように漏れた柔らかな声に、ふりかえろうとする身体を拒否して、相手の白い首筋に吸い付けば、
「このまま、こっちを向くな。」
命令するように静かに囁いた。

筋肉のつきがいい腰から腕を解いて、ポケットから取り出したチョーカーを、目の前の白い首に回して。
「ぼーっとしてたら、たまたまできたんだ。」
革紐のうねりを整えるように指を這わせて、彫刻を施したトップを指先で撫でる。
「勘違いすんなよ。」
捨て台詞のように低い声で呟いて、照れ隠しに、広い背中に手で作ったピストルを当てた。
「おれが部屋を出るまで、じっとしてろ。」
そう、芝居じみた動きで相手から離れて、後ろにノブに手を掛ければ、

「ありがとな。」

その言葉を遮るように、ドアを静かに閉めた。



律儀なロマンチストは恋人に贈られたプレゼントを暫く身に着けたままだろう。
「…馬鹿だよな。」
そう、自分と恋人に呟けば、誰もいない甲板で月を見上げた。

きっと、愛しい人が裏に彫られた本心に気付くのは数日後。
その瞬間、速まる鼓動が聞きたくて。自分の名を呼ぶ声が恋しくて。




また、そっと、耳を澄ませた。







2016.07.18
「おれだけをみてください。」その言葉で君を縛って。




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