Titel



風を追う兎




船首に座る愛しい人は、まるで海を駆けているようで…


「なぁ…ゾロっ」
麦わら帽子を片手で抑え、船首の上からルフィが言う。

「おれ、風になりたいっ」
キラキラ輝く笑顔は可愛くて、でも何故だかゾロはその言葉に少し寂しそうな顔をする。


「風…か…」
ゾロが静かに呟く。


船首の上で嬉しそうに風を受け、ルフィが笑う。

黒髪が風に揺れ……


本当に、風になってしまうんじゃないかと思った。


「ルフィ…降りてこい」
ゾロがルフィを呼ぶ。

ルフィは、ん?と不思議そうに振り返り、ゾロを見る。

そして…
「ここはおれの特等席だから、いくらゾロでも譲らねぇぞっ」
とまた笑う。

その笑顔が可愛くて…


怖かった……

いつか届かなくなるんじゃないかと。


「ルフィ、降りろ…」
ゾロがもう一度言う。ルフィを見つめてしっかりと。

「でもさ、ここ、海が綺麗に見え……」




ぶわっと強い風が吹いた。


そして…




ゾロがルフィの腕を掴み引く。

落ちる頭はゾロの唇で止められ。


船首の上と下でキス……






もしもお前が風になったら…
きっと俺には追いつけねぇから…

もし、お前が風なら……
俺は………

自惚れた兎…か?

自分が速いと勘違いして
風を捕まえようとする……

間抜けな兎……






そっと唇が離れて……


「ゾロ……寂しい?」
ルフィが不安そうに尋ねてくる。


「なぁルフィ……」
ゾロはルフィを見上げ……

「風になんてなるなよ…。俺の側にずっといろ…」


ゾロの瞳は真剣で、ルフィはその緑の瞳を、吸い込まれてしまいそうだ、と見つめ返した。


「ねぇ…ゾロ…」
ルフィが両手をゾロに向け広げる。

「降ろして?」


ゾロはルフィを抱き上げる。
そして、ゆっくりと甲板へ……


「ダメっ」
ルフィがゾロの首にぎゅっと掴まる。
「降ろしちゃやだっ。だっこ。」


ゾロはもう一度しっかりルフィを抱える。


「これで寂しくない?」
ルフィがゾロの背中に手を回し、耳元で優しく問う。


「…馬鹿」
ゾロはそっとルフィの頭を撫でる。
「寂しいなんて言ってねぇだろ。」


「でも…」

ルフィがゾロの瞳を見据える…




「ゾロの瞳は寂しいって言ってたぞ?」


柔らかな手の平がゾロの頬に触れる。


全部、お見通しかよっ…

とゾロはふぅと息を吐く。

「そうかもな…」

ルフィを見つめ…
「風になりたいなんて言うから、寂しかったのかも。」




「おれはっ」
ルフィがゾロの両頬を温かな手で包む。


「おれは風になって、ずっとゾロの側にいたいんだっ」
ルフィがしっかりとゾロの瞳を見つめる。
その目は真剣で、それでいて切なげで……

美しかった




「じゃあ……」
ゾロが静かに口を開く。


「ずっと側にいてくれ…」

抱きしめ、キスする

相手の存在をしっかり噛みしめるように…



「当たり前だっ」

ルフィがいつもの笑顔をゾロに…


おれはここにいる




潮風がさっと吹いて、2人の髪を揺らす。

風に攫われないように、ゾロはルフィをぎゅっと抱く………








お前はいつだって、
俺の先を突っ走るから……

心配なんだ

俺が全速力で走ったって
到底、追いつけないから……


だから…
俺は、いつまで経っても………




風を追う兎










/貴方の背中に触れたくて…
09/01/11
「安物スーパーマン」より
風を追う兎


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(Thenks/つぶやくリッタのくちびるを、)





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