Titel



さよおなら、あたし




どれだけ泣いたって、決して戻りはしないのだけど…

どれだけ悔いたって、昨日は帰って来ないのだけど…

涙は出るのだ…

たくさん、たくさん………




ルフィは1人港にいた。

みんな、仲のいい仲間だけれど、やっぱり1人1人やっておきたいことはあって…
自由時間はそれぞれで過ごすのが、暗黙のルールになっているから…

だからルフィは1人港へ来た。
海を見つめる。大好きな海。

真っ青で広くて、ずっと憧れていた海。
海を見る度、最近はいつも涙が溢れて…

ホロリと涙が頬を伝う。

泣きたくない、と腕でゴシゴシ目を擦る。

「船長、なんだ。おれはっ」
ポロポロ溢れる涙は海の味。

「泣いちゃ、だめだっ」
言葉とは裏腹に涙は全く止まらない。
ルフィはその場にしゃがみこむ。




「ルフィ?」
ゾロの声がする。

ルフィははっと立ち上がる。

「ルフィー?」
ゾロの声はだんだん近付いてくる。


だめだ、泣いてるとこなんて、見せちゃ…

ルフィはまだ、涙の溜まった瞳で走り出す。

視界が揺らぐ。ゆらゆらと…
まるで海のよう………
海の底のよう………

ひとり寂しい海の底………?


ぐらりと足元から体が浮かぶ。そしてバシャンと大きな音がして……


海へ落ちた。

大の字で底へと沈んでいく。
ふわふわと麦わら帽子は水面へと飛び…


お願い…
おれの麦わら帽子…
ひとりはいやだよ…?
一緒にいて…?


それでも麦わら帽子はルフィを置いて水面へふわりと顔を出す。


いつもなら苦しくて仕方ないのに、なぜか今日は何も感じない。
ただ時間がゆっくり流れて……

ゆらゆらと揺れる太陽を見、メリーはいつもこんな世界を見てるんだな……

綺麗だな…


と微笑んだ。

そして泣いた…。








「おい!ルフィ!」
名前を呼ばれて、ゆっくりと瞳を開ける。
「……ゾロ?」
目の前にはびしょ濡れで、心配そうに見つめてくる瞳があって……

「何やってんだよ!ルフィ!」
ゾロはルフィをギュッと抱きしめる。

「ゾロ…?」
ルフィの瞳からは涙が止めどなく溢れて。
「ゾロっ、ゾロっ…ゾロぉ」
一生懸命、相手に抱きつく。


泣いてはいけないと、わかっていても、でも、その涙は止まらない。


「どうしたっ?ルフィ?」
ゾロも少し驚いてルフィを抱きしめる。

それでもルフィはゾロの名前を呼んで泣くだけ…
ただ、しがみついてくるだけなのだ。


ゾロは優しく背中を撫でてやる。こんなに泣いているルフィを見るなんて、初めてで…。
ただ、安心させてやりたかった。




ずっと抱きしめていると相手の体温が直に伝わってくる。
温かいな、なんて考えて、今、自分達がずぶ濡れであることを思い出す。

ゾロは静かにルフィに尋ねる。
「船、戻るぞ?」
ルフィを抱き上げ、立ち上がる。

「やだぁ…」
ルフィがゾロの首に手を回しぎゅっと掴まってくる。
「船に帰りたくないっ…」
ゾロの首筋に顔をうずめ、また泣く。

困ったようにゾロはルフィの頭を撫でる。
「会いたくない奴いんの?」
「…ちがうっ」
ルフィはゾロに更に抱きつく。

「じゃあ、なんで?」
ゾロは出来る限り優しく静かに尋ねる。
それでもルフィは
「帰りたくないっ」
と呟くだけ。




ホテルの一室を借りた。
冷えた体を温めるためにシャワーを浴びて、備え付けのパジャマを羽織る。
もちろん、ルフィも一緒に。

「どうした?」
とベットに腰掛けるルフィに問う。
「恋人に、秘密はなしだろ?」
とルフィの前にひざまずくとそっと頬を撫でてやる。

「ゾロっ」
とルフィはまた抱きついて、ゾロの耳元でそっと尋ねる。

「おれ、船長だけど……」
いつもと違う寂しげな声。

「船長…だけど…頼っても、いい…?」
また泣き出しそうな、耐えているような、そんな声。

「おれ…ゾロ……」
ルフィの声が、更に、更に小さくなる…




「辛いよぉ…」




その一言でゾロはルフィをベットへと押し倒す。

そして口付け。

「ん…ゾ?」

声を出そうとするルフィを、ゾロは唇で塞ぎ込む。


唇がそっと離れると


「俺はいつだって頼らせてやる。」

ゾロはルフィの瞳をじっと見る。

「船長とか、そんなんじゃなくて……」

ルフィもゾロを見上げる。真っ黒な瞳が微かに揺れる。


「俺はルフィが好きだから!」


ルフィはばっとゾロに抱きつく。重みでゾロもベットへ……


2人でベットに転がる。








「メリー……か。」
ゾロはルフィをおぶり、夕焼け空の下、船を目指す。

「海の底では独りきり…ねぇ?」
そして、また呟く。


ルフィ言った、

海を見る度、メリーが見えると…

おれがメリーを置いてきたからだと…

船長なのに守ってやれなかった、と……


ホテルで話すルフィの顔が浮かぶ。
悲しげで、静かで、美しかった…
あの、愛しいルフィの顔が………


不覚にもメリーに嫉妬する

そして…

「幸せだろ、メリー…?」

夕焼けに染まる海を見つめた。








ベットの上で向かい合う。


「メリーは…」
ルフィの声は少し震えていて…


「メリーは海の底でひとりなんだぞ?」
ルフィはぎゅっとズボンを握る。

「誰も助けに来てくれねぇんだぞっ」


おれは、ゾロやみんなが助けてくれるけど…
メリーはずっと、海の底…

暗くて寒い、海の底……


「太陽にも当たれないし、」
ルフィは俯く。

「雨にも浴びれないし、」
下唇をきっと噛む。

「風に吹かれることも、」
ズボンを握る手に力が入る。


「おれたちの顔も見れねぇんだぞ!」


ばっと上げられたルフィの目から真珠がポトリ。


その真珠を親指で拭ってやると、ゾロが静かに尋ねる。

「俺たちは、ずっと海を旅してきたよな?」
「うん」




「なら俺は、そんな海で眠れて幸せだと思う。」




ルフィはゾロを見つめる。


「それに…」
ゾロはとん、とルフィの胸に拳を当てる。

「メリーはここにいる。」


また泣きそうな顔をするルフィの額に、ゾロはそっと唇をつける。

「泣いたら、メリーが悲しむだろ?」

そして、優しく髪をといてやる。


「うんっ」
と笑う目尻には確かにきらりと何かが光ったけれど、何も見えない、何もない。






確かに今日まで泣き虫だった。
でも今日でお別れ……
さよおなら、泣き虫……

さよおなら、あたし










/やっぱり笑顔がいいって言ってくれる人がいるから…
09/01/05
「安物スーパーマン」より
さよおなら、あたし


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(Thenks/つぶやくリッタのくちびるを、)





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