Titel



ヘリオスの轍

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「すきだ」と抱き締めたところで
きっと小さな心には何も響かない。




「エース…。」
小さく呟いたその瞳が濡れているのを見て、その細い肩を守りたくて仕方なくなった。

綺麗な額縁に納められた笑顔の彼は、もう帰りはしないルフィの兄で。線香の独特な香りが漂うそこで、ルフィは肩を震わせて静かに泣いた。
似合いもしない真っ黒な喪服に、真っ赤に充血した瞳は、いつもの彼とは程遠くて、まるで夢の中にでもいるようだった。


「おれな、兄ちゃんのこと、すきなんだ…。」


頬を染めながら、告げられたあの日の言葉が頭をよぎって、俺の胸まで何故だか震えた。

真っ白な花に包まれたエースは、もう目覚めはしないのに。帰ってこいよ、と呟きながら、その冷たい身体にしがみつく弱々しい背中を引き離すことができなくて。


寒い寒い冬の帰り道。講義が終わって、コンビニの肉まんをくわえながら、告げられた本当の心。ルフィの初恋。
兄のことがすきなのだ、と躊躇いなく呟いた瞳が俺を映して。
「けど、これはゾロとの秘密な?」
そう、幸せそうにクスクスと笑う唇が愛しくて、切なかった。
「だって、本当のこと話したら、エースがびっくりするだろ?」

ふわりと揺れた黒髪が視界を捕らえて。
同性同士では結ばれないということを、この小さな心はもう理解しているのか。慰めたいなど、思わない。愛や恋する心に、そんなものは必要ないと思うから。
ただ、チクチクと痛む胸は、困難な恋に踏み出した大切な友人を思う気持ちなんかじゃなくて。きっと。

痛いほどに冷たい風がふたりを押して、トンと当たった肩が何故か無性に熱くなった。

あぁ、そうか。俺はルフィがすきなのか。
そう、その時初めて気が付いた。

「だから、このことはゾロとの、ふたりの秘密だぞ?」

甘い声で囁いた想い人が夜の月に照らされて、なんとも綺麗に俺には映った。




「ルフィ…。」
そっと背中を撫でてやっても、大粒の涙は止まりやしない。
「ルフィ。」
優しく抱き締めてやったって、愛らしい声が呼ぶのは、俺じゃなくて…


「…エー…ス」




代わりなどは出来やしない。
忘れろなんて、言いやしない。

ただ、それほど哀しむのなら…



俺のものに、なってしまえば
もう、一生、泣かせやしないのに。










貴方の通ったその道を
俺の足跡で消せやしませんか?

貴方の作ったその傷を
俺が埋めるのは不可能ですか?


貴方の愛した、その人を、
俺にくれやしませんか?


貴方は最後まで
彼を縛って
ずっとずっと
跡を残すつもりですか?


それは、余りにも憎い




ヘリオスの轍











/これはきっと、貴方が彼を愛していたと、彼へ伝えなかった俺への意地悪な置き土産。
2012/12/05
「安物スーパーマン」より
ヘリオスの轍




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