Titel



写真に残る虚像

(新婚ZL←S)


お前が好きだよ
だから俺は邪魔なんだ。




玄関に飾られた写真を見つめて、ふと思う。あぁ、幸せなんだな、と。
愛されていることなんてわかってる。愛していることもわかってる。でもでも、忘れられなくて。
久々に遊びに訪れた、まだ綺麗な新居に、二人分の靴。棚の上に飾られた造花に、甘い笑顔の二人の写真。

確か、この雪のように真っ白な写真立ては自分からの結婚祝いだったよな。




「サンジ、いらっしゃい」
そう言って玄関に現れた愛らしい笑顔に微笑んで、後ろからやってくる"旦那様"に
「どおも、ご無沙汰です。ロロノア君。」
なんて他人行儀。


いいだろう、これぐらい。お前は俺の大好きなルフィを奪ったんだから。好きで好きで堪らない大切な人を、お前はいとも簡単に俺から奪ってしまったんだから。


「もう、またサンジと喧嘩したのかっ」
とご機嫌斜めにふっくらと膨らむ、白いほっぺが可愛い。尖らせた唇が好きで、きっと睨む瞳も愛らしい。
いいよな、それは全部お前のもの。告げられる言葉は俺ではなく、確実にお前に向けられていて…




リビングに迎えられ、ソファに腰掛ける。ルフィが淹れたという紅茶は、砂糖をたくさん入れすぎたのか驚くほど甘いのに、決してマズいとは思わなかった。

「で、今日はなんの用で呼んだんだ?」
と隣に座らせたルフィの腰に手を回し、そっと抱き寄せてみる。なんの抵抗もしない小さな肩が、俺の肩に触れて、ぼんやりとそこが熱くなった気がした。


本当ならこういう関係になりたかった。本当なら俺がルフィを幸せにしてやりたかった。でも……

ルフィが選んだのは俺じゃない。


ふと見えたゾロの表情が馬鹿みたいに歪んでいて。苛立ちを表す相手に、意地が悪くも嬉しく思えた。
好きな奴をとった、大嫌いな奴。俺のルフィを奪った最低な男。

ぐるぐると巡る映像に思考。
好きと嫌いと、やっぱり好き……
なんだか、訳が分からなくなって……




真っ赤な唇にキスをした。




テーブルに置かれていたティーカップが音を立て、床へ落ち、気付けばゾロに胸倉を掴まれて…

「何やってんだっ!」
と強引に立たされた。

緑の瞳にはもう優しさなんてなくて、ただただ、俺を酷く鋭い眼差しで見つめていた。俺を殴るために振り上げられた腕は堅く握られ、あぁこりゃ死んだな…と本気で思った。


振り下ろされるはずの腕が、ルフィの温かな手に触れて。小さな体が必死にゾロに抱き付いて
「ごめんな、ゾロ。おれが悪いんだっ…だから、殴らないで!お願いだから!サンジは悪くないからッ!お願いっ…」
と俺を庇って何度も何度も、意味もなく謝って……


「ごめん。」
と呟いて、背を向けて。

俺は逃げた。


「待て!」と叫ぶゾロの声に、ルフィの泣き声が聞こえたって、俺は立ち止まることが出来なかった。

だって…
悪いのは全部俺なんだから。




数日後、何故かゾロが俺の元にやってきて、深々と頭を下げてきた。

お前は何もしていないだろう?悪いのは嫉妬している俺で。ルフィを泣かせた俺なんだ。

手に持った紙袋を俺に差し出して、じっと此方を見つめる瞳には、もう怒りなんてなくて…

「この間は悪かった。だから、頼むから、また仲良くやってほしい。」
真剣な表情で頭を下げるゾロは、俺から見たって男らしくて誇らしかった。

「あれから、ずっとルフィに元気がなくて…毎晩毎晩、お前に嫌われたんじゃないかって泣くんだ。」
呟く言葉はひとつひとつ慎重で。

「俺も過敏になりすぎてたんだと思う。学生時代なら、こんなこと普通だったかもしれないのに。…だから、頼むから、これからも俺と…嫌われてることだって重々承知だ…でも、アイツのためだと思って、どうにか、俺達の傍で支えてくれないか。」

頼む、と下げられた頭を見つめて呆然とする。なんて馬鹿げているんだろう。俺がこんな真っ直ぐな奴に適うはずないじゃないか。

だってコイツは、
俺以上にルフィが好きなんだから。






「この間は熱でもあったことにしてくれ。」
なんて調子のいいことを言って。ルフィの為に作ったロールケーキをゾロに手渡した。

「今回は俺が悪かった。ごめん。ただ俺がルフィを好きだっていう事実は変わんねぇし、お前が恋敵だってことも変わんねぇ。……でも」

今日、こうしてゆっくり話が出来てよかったと思える。だって、お互いこんなにルフィが好きなんだから。


大きな肩に手をかけて、学生時代のようにガッとふざけて抱き寄せて

「お前がライバルじゃなきゃ始まんねよな。」

なんて、負けず嫌いにも程がある。


「あぁ、馬鹿な奴…」
と笑う相手の顔もまた、学生時代と変わらなくて、なんだか懐かしく思えてしまう。





「その感想、ルフィが待ってるから、また遊びに来いよ。あ、あと今度は俺の隣に座れ。」
と手を振る相手を見送って、渡された紙袋を覗く。

中には綺麗な模様が刻まれた記念写真。
真っ白なドレスに飾られたルフィに、それを抱き寄せる嬉しげなゾロ。二人を囲んだたくさんの人々。

もちろん、その中に俺もいて……







駄目だな…

どれだけ写真を眺めたって
目にはいるのは幸せそうな二人の笑顔。


そうさ、
大勢の人に隠れた俺は、所詮……




写真に残る虚像










/でも、そんな俺をお前たちは欲してる。
2010/09/24
「安物スーパーマン」より
写真に残る虚像




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