空に沈む
いつもの特等席で
海を、空を…
眺めた…………
今日は、いつも以上に海が透明で、ふわふわと浮く雲が、輝く太陽が……
空がそこにあった。
ルフィは、ぼーっとした視線で自分の下に広がる空を眺めた。
不思議だった。
美しかった。
ただ、それだけだった。
船首に座る愛しい人を眺めた。
いつもと何ら変わりないのに、不思議と魅力的に見えた。
もしかしたら、今日、空が特別綺麗だったからかもしれない。
黒髪がさらりと潮風に浚われて
丸い大きな瞳は海を見つめて……
ただ、静かな、穏やかな午後。
キッチンから美味しそうないい香りと、何かを煮込むコトコトという音が漏れ、医務室からは薬草をすり潰す規則正しい低音が響き、遠くの部屋から鉄板をカンカンと打つ音が聞こえ……
ヴァイオリンの優美な音色と混ざって、それはまるで、心地良い協奏曲。
ゾロがゆっくりと船首へ近付く。
「一緒に昼寝をしよう。」
なんて、言って、ふたりで快い午後を過ごそうと……
すると…
ぶわっと強い風が吹いて
ピタリと音が止まった………
柔らかなメロディーを奏でていた協奏曲も、カモメの鳴き声も、風も、
波が止んだ………
周りは耳が痛いほど静かで、何故だか不安な気持ちになった。
目の前の愛する人を抱きしめたかった…
腕を伸ばすゾロの目の前で、ルフィがすっくと立ち上がり、ふっと空に手を伸ばして………
ポチャン……
と海に落ちた。
あまりにも呆気なく、まるで深い青に吸い込まれるように………
ゾロが慌ててルフィを追って美しい海へと飛び込んで…………
ふくふくと泡が白い身体を包んで……
驚いて見開いた真っ黒な瞳は、
追ってくるゾロを見上げて
そっと微笑んで………
静かに海面を指差した………
ルフィを追って飛び込んだゾロは、ルフィが指す水面へと振り返る。
ふくふく………
と驚きから薄く開いた唇から小さな泡が洩れて………
そこには、美しい空があった。
輝く太陽も柔らかな雲も
羨ましくなるような美しい青も……
にっと笑ったルフィの白い歯の間から
大きな泡が浮かんで………
静かに真っ黒な瞳は閉じて………
深い空から這い上がる………
そうしなければ
きっと俺達は、永遠に……
空に沈む
/なんで、飛び込んだりしたの?…だって、雲になら立てそうな気がしたんだもの。
09/02/07
「安物スーパーマン」より
空に沈む
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(Thenks/つぶやくリッタのくちびるを、)