Titel



あたしのアンチヒーロー

(新婚さん設定)




もし貴方が
私だけを愛するヒーローなら…






「ゾロ、香水の匂いするっ…」


「おかえりなさいっ」と抱きついてきたルフィが眉間に小さな皺を寄せる。


ゾロの顔をじーっと見つめて、はっとしたように、大きな瞳を更に見開いて……


ぎゅっと引っ付いていたゾロの胸をそっと押し

「浮気っ…?」
と悲しそうな顔をして。



「ゾロ、どこ行ってたの?お仕事で遅くなったんじゃないの?」

その目は裏切られた、と不安に揺れいて…

「ゾロのうそつき。」
ルフィの小さな手は、ぎゅっと自らのズボンを握り締め…


「ち、違うぞっ」

ゾロがルフィを見つめる。

「でも、香水の匂いがするもんっ」
ルフィはゾロをきっと睨み

「ゾロの匂いじゃないっ女の人の匂い。甘い花の匂いがするっ」

その瞳はゆらりと揺れて……


「ゾロのうそつきっ!ゾロの馬鹿っ!」

ルフィがゾロに背を向け……



まるで、ルフィが自分から離れていってしまうようで恐くて…

どうにか、今の状況を説明したくて…

誤解だと、叫んで、訴えたくて……




ゾロの手が勢いよく細い腕を掴む…


ルフィを引き留めたくて…

愛していると伝えたくて………


それでも、人生は何だか意地悪に出来ていて…

焦って掴んだ拳には必要以上に力がこもった……



「痛いっ…」
ルフィが涙目になる。

じっと見上げる瞳には、悲しみが溢れていて…

「やめて…」

ぼそりと弱い囁きが静かな玄関に響き…




「ごめん…」
ゾロがそっと手を離す。


ルフィの手首は、少し熱を持っていて…

小さな手は、そっと赤く染まった手首を撫で、涙の溜まった瞳でゾロを見上げる。


「ゾロなんか、大嫌いっ」
とポロリと涙が零れ、柔らかな頬を濡らして…


ルフィが駆ける。


「ルフィっ…!」
伸ばしたゾロの腕がぱん、と弾かれ、


「やだっ」
振り返る、その瞳は脅えていて…

涙が止めどなく流れ落ちて…




バタンと寝室の扉が閉まった…




ゾロは茫然と閉まる扉を見つめる。

「やだっ」

とルフィの哀しげな顔が頭の中でリピートを繰り返す…






はっと気付いて、寝室へと急ぐ。
もちろんドアには、鍵がかかっていて…


「ルフィ、誤解だからっ」
ドアを叩く。

寝室からは小さな泣き声が洩れていて…

「ごめんな、ルフィ…」

懸命に謝って……





そぅっと扉が開く




中からは大きなカバンを抱えたルフィが…


ルフィはまだホロホロ泣いていて…



「ルフィっ!」

抱き寄せようとゾロがそっと腕を伸ばした…


「帰るっ…」

ゾロの動きがピタリと止まり……


「おれ、エースのとこ帰るっ」

カバンをぎゅっと抱き締めて、寂しそうに肩を震わせて…



「ゾロは、もっと好きな女の人と暮らせばいいっ…。おれはエースのっ」




無理やり唇を塞いだ……


小さな後頭部を撫でて、一方の手は細い腰を離すまい、と引き寄せて……


「ルフィ、ごめんな?心配したよな…ごめん。」


そっと呟くと、ルフィの腕から大きなカバンが落ちて、ふたりの足の間でどさりと音をたて…


ルフィは黙ってゾロの胸にしがみつく。


「家でひとりで、寂しかったな?ごめんな。」

黒髪を撫でていた温かい手が、涙で濡れた頬を撫で………


「俺は、お前が一番だよ…」


小さく震える肩をぎゅっと抱き締めて…


「だから、ルフィ…一緒にいて?」







ソファーに座って仲直り。
ゾロが、そっとルフィに愛らしい包みを渡す。
「これ…?」
ルフィが小さな袋を見つめて、ゾロに尋ねる。
「仲直りのプレゼント。」
ゾロはそっとルフィの眉間にキスをする。

「開けていい?」
「ルフィが開けたいなら。」



そっと開いて見れば、中から赤みがかった綺麗なガラスの瓶。



「なぁに?」
ルフィがじっと小瓶を見つめて、ゾロに尋ねる。

「手首、貸して?」
ゾロがそっとルフィの腕を掴む。


ルフィはピクリと肩を震わせて……

ゾロもそれに気付き、ルフィの手首を優しく撫でる。


「さっき、痛かったよな…。ごめんな。」

手首にそっと、そっと、唇を寄せてやると、ルフィの表情が和らいで…

「今まで、ゾロに痛いことされたことなかったから、恐かっただけっ」
と自ら手首を差し出して…

「教えて?それはなぁに?」

先程まで涙でいっぱいだった瞳でゾロを見つめ……



小瓶の蓋を外して、ルフィに向かって、


シュッ………




ふわりと甘い香りがして…

その香りはバニラのような、チョコレートのような、人を誘う不思議な香り…


「香水…?」
まん丸の瞳をしたルフィがゾロを見つめて…


「そう。これ買ってて今日遅かったんだ…。この間、ルフィが俺の見て、いいなって言ってたろ?だから…」

そっとルフィの頬を撫でて…

「でも、不安にさせちまったな。ごめん…。花の匂いは多分あの店で色々見てる時に着いたんだと思う。いやな気分にさせちまったし、要らないなら、これも捨ててもいいよ……」

ゾロがルフィを優しく見つめる。
ルフィはんん、と小さく唸って俯いて…

「ルフィ…?」


「ゾロ、のっ…バカぁ…」

ホロホロとまた涙が零れる………

「ルフィっ…」
ゾロが心配そうにルフィを引き寄せて…
「また、俺、悪いこと言った?」
と静かに尋ねて……


「捨て、ないもんっ…ゾロが、くれ、たのは…捨てないっ」
ルフィはぎゅうぎゅうとしがみついて……


「ごめんなさいっ…おれ、ゾロすきっ…だいすきっ。大嫌いなんて言って、ごめんなさいっ…。」
可愛い声は一生懸命謝って……

「だから…おれの側にいて…。見捨てないでっ、嫌いになんないでっ」




唇に柔らかな感覚が走って………
「なるかよ、馬鹿…」

力いっぱい抱き締めて………

「俺はお前がすきなんだ!」



ルフィの手首から甘い香りが漂って…

ゾロの首筋からもいつもの爽やかな香りが薫り…………



ふたりで同じ時間を、同じ空間を満たして………








もし貴方が
私だけを愛するヒーローなら…

こんなにも不安にならないのに……


貴方は私を愛しすぎるから……

驚かせてやろうなんて企むから……


ねぇ?
だから、私は泣くのよ?


ねぇ………




あたしのアンチヒーロー










/でも、悪者がいなければ、ヒーローなんて必要ないから……
09/02/01
「安物スーパーマン」より
あたしのアンチヒーロー


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(Thenks/つぶやくリッタのくちびるを、)





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