ハーメルンの戯言
(新婚パラレル)
絵本を開いて中を覗けば
そこには私たちの確かな愛が……
月に一回、お家で退屈している可愛い奥さんにお土産を用意する。
今日は、ちょうど、そのお土産を用意する日で…
ゾロの手には茶色の紙袋が揺れる。
「ただいま。」
と玄関でルフィを待つ。
いつもなら、パタパタとスリッパの音が近付いて「おかえりなさいっ」とキスしてくれるはずのルフィが、今日は何故か駆けてこない。
「ルフィ?」
と小さく名前を呼んでも返事はなくて…
少し急ぎ足でリビングへと向かう。
リビングのソファーの足元に、小さな脚が見えて…
「ルフィ…」
とゾロが安心したように、その場にしゃがみ込む。
ソファーのすぐ下で丸くなって、すーすーと寝息を立てるルフィ。
そのすぐ近くのテーブルには作りかけのパズルが乗ってあって…
ここ最近、パズルを一生懸命していたから、疲れてたんだな…
とゾロがルフィの頬を撫で、微笑む。
テーブルの上に散らばるパズルは、完成すると綺麗な海の絵になる。
真っ青な広い海に、大きな船が一隻浮いていて…
ルフィの大好きな海のパズルは、先月のゾロからの「お土産」。
ゾロはそっとルフィを抱き上げ、ソファーへと寝かせ、近くにあったブランケットをかけてやる。
ルフィは小さくんん、と唸り、ゆっくりと瞳を開いた。
上半身だけを起こし、トロンとした目をゴシゴシ擦り、愛らしい声で
「おはよう…」
と呟く。
その姿が、あんまりにも無防備で、可愛くて、ゾロはふっと笑い…
そっと額にキスを落とす。
「おかえり、だろ?」
と笑いかけると、ルフィは瞳をはっと開き
「あ、ごめんっ」
と慌てて謝って…
「お留守番中に寝ちゃった…」
と悲しそうに俯いて……
ゾロがそっとルフィの頬を撫で、
「謝んなくていいから、おかえりなさいのキスして?」
と甘い声で呟いた……
「うんっ」
ルフィがにっこり笑うと
「おかえりっ、ゾロっ」
柔らかな唇がゾロに触れ…………
「お土産。」
と紙袋をルフィへと手渡す。
「開けてみて?」
ルフィは紙袋の中をそぅっと覗いて…
キラキラと瞳を輝かせる。
「絵本っ!」
ルフィがゾロに抱きついて
「ありがとう、ゾロ…。嬉しいっ」
とゾロの鼻にキスする。
子供っぽいかと悩んだが、以前買ってやった「赤ずきん」の絵本を気に入って、ルフィが何度も読み直していた事を思い出した、ゾロの今月の「お土産」は…
「ハーメルンの笛吹」…
ハーメルンの街に、ある時、不思議な「鼠取り」を名乗る男が現れる。
鼠取りは、街で悪さをする鼠を残らず退治してやる代わりに、報酬を街の人々に要求した。
鼠のために大変困っていた人々は、鼠取りに御礼の約束をし、鼠退治を頼んだのだった。
ある夜、鼠取りは笛を吹いた。
その音を聴いて、街中の鼠達が鼠取りの後を追い始める。
長い長い鼠の行列は、大きな川へと辿り着き、悪い鼠は一匹残らず川に流されてしまった。
鼠がいなくなり、街は平和に戻った。
しかし、街人から鼠取りへの報酬は支払われなかったのである。
怒った鼠取りは、その夜も、あの不思議な笛を吹き、今度は街の子供たちを一人残らず連れ出して、その子供たちと共に暗い暗い洞窟に吸い込まれて、消えてしまったのだ。
それから、街の人々がどれだけ捜しても、子供たちは誰一人、見つからなかったのである………
ベットの上で足をパタパタと揺らし、ルフィが絵本をふむふむと読む。
今回のお話は「赤ずきん」より、幾分か難しいようで、眉間に可愛い皺を寄せている。
「面白くない?」
ゾロがベットへと腰掛け、絵本を覗き込む。
そのページには笛を吹く鼠取りと、たくさんの鼠のイラスト。
「ねぇ、ゾロ…」
ルフィが絵本をパタンと閉じて、ゾロを見上げる。
「ゾロはついてっちゃダメだからっ」
愛らしい声で呟き、ぎゅっとルフィがゾロに抱きつく。
「消えちゃやだからっ」
表紙に描かれた鼠取りが何故か不気味に笑ったように思えて……
「消えるかよ…」
と小さな体を抱きしめて…
俺には…
お前の声しか
お前の息遣いしか
お前の鼓動しか
お前だけしか聞こえねぇから…
たとえ、世界中の人々が魅了するような
そんな音楽だって、
所詮………
ハーメルンの戯言
/それよりお前の可愛い声が聴きたい。
09/01/29
「安物スーパーマン」より
ハーメルンの戯言
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(Thenks/つぶやくリッタのくちびるを、)