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鍋中の空想


ほわほわと満ちる湯気に、ぽちゃんと落ちる滴。
何もかもが温かなその空間が幸せで、ほっと小さく息を吐いた。



身体を洗って湯船に浸かれば、背中から抱き締めてくれる愛しい人の腕。
そっと髪に埋められた鼻先がこそばゆくて、幸せで。

「ゾロは、お風呂、すきだなぁ。」
とクスリと笑えば、ぎゅうっと抱き締める手に力がこもって、
「お前と入るなら、な。」
なんて、ふたりの身体が密着した。

こてんと上を向くように、安心できる肩に頭を預ければ、今度は額に口付けられて、まるで頭から食されているようで。ふわりと長い睫毛を震わせれば、静かにそっと瞳を閉じた。
狼に食べられるウサギはこんな気分なのか、なんて、この満ち足りた世界とは懸け離れた空想をすれば、瞼に熱い唇が触れて、ぴくりと肩が揺れる。
「…ルフィ。」
そう呼ぶ声が、いつもより低くて、いつもより掠れていて。
堪らなくなって、相手の首に腕を掛けて。背中を反られて。

反対世界でキスをした。


ぽちゃん、と鳴る水音に
「…もっと、」
なんて、珍しい相手の声が響けば、緩んだ腕の中、向き合うように座りなおした。

「今日のゾロは、甘えん坊だ。」
緑の髪を撫でて、お返しとばかりに目元の傷に口付けて。
「でも、簡単には食わせねェぞ。」
そう、両手で頬を包んで、こつんと額を合わせれば、
「望むところだ。」

そう、どちらともなく唇が重なった。


背中に回された指先が掴むのは、きっと、伝えきれない程に大きな愛で。
言葉にすら出来ない程の熱い想いを、舌に乗せて。


ぽちゃん、


濡れた髪から滴るのは、きっと、

溶けだした2人の想い。




貴方にならば食べられたって、
そんな言葉は心に秘めて。








2016.09.19
ぐつぐつ熱いお湯の中、真っ赤なエビがふたりで踊る。








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