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月夜のダンス


煌めく星のライトに、真っ白大きな月のステージ。


停泊中の船から降りて、ふわりと降り立った植物繁る大きな森は、真ん丸のお月様に照らされて、青白く光って見えた。大きな瞳が空を見上げて、ほっと小さく息を吐けば、目的があるわけではないけれど、あまりに明るい夜に落ち着かなくて。しっとりと冷たい葉をかき分けて奥へ奥へとずんずん進む。
昼間は煩いほどに聞こえた鳥たちの声も、虫の羽音も、枝の軋む音すら今はなくて、
「夢の中みたいだ。」
なんて、艶めいた唇から、言葉が零れた。

木々の間をゆったりと歩けば、きらり、何かが見えた気がして。凛とした空気に導かれるように、その不思議な瞬きに向かって進む。団扇みたいな大きな葉をそっとずらしてみた景色は、白い花の咲き乱れる木々に囲まれた、硝子のように澄んだ湖で。ふわりと舞う花びらに、手招くようにまた、きらきらと星空を映した。

御伽話の挿絵のように美しいその場所で、自分が立っていることが何とも不思議で。ぱたぱたと脱いだ草履を近くの枝にひっかけて、そっとそっと足を水に浸ける。足首ほどまでしかない浅瀬でぱちゃりと揺らめく夜空を蹴り上げれば、煌めく滴がまるで宝石のように舞った。
鏡のような水面には、ダイアモンドの星屑に、天使の羽を思わせる花びら。そして、その中央にぽっかり空いた異世界の入り口を模した真っ白な月が浮かんでいて。

いつもは遠く感じる、温かで、それでいてひんやりした明かりに触れたくて、静かな水音を立てながら、丸いそれに手を伸ばせば、

「ここにいたのか。」
なんて、月明かりに照らされた愛しい人の声。

「ゾロ…。」
と柔らかな髪を揺らし、振り返った船長の姿が、まるで湖に囚われた女神のようで。
「ルフィ。」
そう、現実世界に引き止めたくて、濡れることなど構わずに相手の白い腕を引いた。

「こんなとこで、なにしてんだ。」
と、夜風に冷えた頬を撫でれば、
「月に立ってみようと思って!」
なんて、いつもと変わらぬ笑顔が返ってきて。

愛おしく軽い相手の身体を抱き締めれば、不思議そうに、また甘い声で名前を呼ばれて。
「お前が消えてしまうかと思った。」
と、素直にいえる訳もなく、誤魔化すように深く深く口付けた。

そっと離れた身体に、桃色の柔らかな唇。
「なんか、ここ、床がピカピカで、ダンスホールみたいだな!」
そう、人の気も知らないで瞳を輝かす可愛い人に
「なら、踊るか?」
と溜息まじりに冗談めかした一言から始まったのは、2人ぼっちの舞踏会。

ステップもリズムも不規則な、それでいてとどまることのないダンスは、水面を揺らして波紋をつくって。くるりと回る度にふわりと舞う上着の裾が、白い花弁が揺れる中、一輪だけ咲いた真っ赤な花のようで。同じように寄り添う深い緑の着物は、さながらその花を支える真っ直ぐな茎。

何も邪魔するもののないダンスフロアで、軽く身体を引けば、ズポリと足が深みに嵌って。
息を呑む間もなく、ばっと腰を引き寄せる太い腕に、水に力を奪われふにゃりと反る細い身体。
それは、まるでダンスを締めるキメのポージングのようで。

「気をつけろ。」
とそのままの体勢で囁けば
「おう、ありがとう。」
そう、楽しげに返すその声すら、透き通ってみえて。

「見てみろ。」
と指差す先には、真ん丸なお月様。
「真上だな。」
なんて、言われたままに夜空を見上げれば、悪戯っぽく笑った愛しい人の腕にいきなり、強く抱き寄せられて。


ふたり一緒に鏡に落ちた。


濡れた髪を掻き上げて、文句を言おうと相手を見れば、真っ黒な瞳の中には、泣きたくなるほど美しい満月があって。


「こんな夜も悪くないな。」
そう呟いて、星空の下、ふたりきりでまた身体を重ねた。







2016.09.18
おどりましょうか。月が沈むまで。
#ゾロル版深夜のお絵描き60分一本勝負「月見」










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