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思い出は桜色

(大学生ZL)


ひらりと舞う桃色の花びらに、黒い髪が揺れた。


部活勧誘で溢れ返った正門前から少し離れたベンチに腰掛けて、ほっと小さく溜息を吐いた。遠くに聞こえる笑い声が、なんだか他人事のようで、一人だけ隔離された世界に存在しているようで。
手元に大量に余った部員募集の手書きのチラシは、他のものより味気がなくて、諦め半分に自販機で買ったコーヒーを啜れば、若草色の髪を春風が揺らした。

「それ、何のチラシだ?」
突如、掛けられた言葉にはっと顔を上げれば、新入生らしき黒髪の少年。くりくりとした大きな瞳には、まだ幼さがあって愛らしい。
「肉、食える部活か?」
キョトンと首を傾げて、それでいて期待にきらきらと輝かせた瞳の中に自分が映って。ゾロは堪らず、クスリと笑った。
「剣道部だ。肉なら歓迎会で焼き肉に行く予定だが、興味あるか?」
差し出した、モノクロのチラシを受け取って
「焼き肉は、今日か?」
なんて、欲望のままに紙に視線を向けつつ尋ねる姿が、なんだか懐かしくて、滑稽で。
「お前が行きたいなら、今夜、奢ってやるぞ。」
心がふわりと熱を持って、また柔らかな笑みが零れた。

気の進まなかった勧誘活動が、何故だか奇跡の瞬間に思えて。
会ったばかりの少年に心惹かれて。


「おれは、モンキー・D・ルフィ!4月からは大学生だ!!」
そう、桜の木の下で胸を張る可愛い人が、気付けば隣で夢の中。
テレビを観ながら眠ってしまった、家事も出来ない不器用な恋人。色付いた頬を撫でれば、甘い息がふわりと漏れて。幸福感に心がきゅうっと締め付けられた。
軽い身体を抱き上げて寝室に向かえば、パジャマの裾を掴んだ手が離れなくて、仕方なしに自分も一緒に横になる。
「お前は、いつも、おれを一人にさせてくれないな。」
さらりと撫でた黒髪が、指の間を抜け白い肌に落ちる。その感覚すら愛おしくて。


「見つけてくれて、ありがとう。」
出会った日に告げるはずだった言葉を隠すように、そっと静かに桜色の唇に触れた。








2016.03.27
#ゾロル版深夜のお絵描き60分一本勝負「出会い」






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