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艶めく唇の理由



ふわりと舞う甘い香りに、尖らせた唇がつやりと光る。


「ゾロー!」
甲板に響く声に振り向けば、ぱたぱたと駆けてくる可愛い人。
勢い良く胸元に飛び込んできた相手を受け止めれば、当然というようにつんと差し出された唇に、反射的に降ろされた白い瞼。普段、あちらこちらに忙しなく動く瞳が伏せられれば、振れる睫毛の長さに胸がぼんやりと熱くなる。
珍しく黙っている恋人を見つめてみれば、それだけで愛おしくてたまらなくて。それでいて、相手の願いを叶えるべく腹巻の中をがさりと漁る。

事の発端はといえば、数時間前に女2人が手渡した小さな桃色の円柱。
「なんだ、これ?」
机に広げられた買い物袋の中身をしげしげと見つめる子どものような瞳に、
「久々の上陸だったから、ナミと化粧品をいくつか見てきたの。」
にっこり微笑む考古学者。
ふわりと咲いた手が摘んで見せるのは、きらきらとした装飾のついた手鏡のようなものに、珊瑚色の紅。宝石を砕いたかのような煌めく粉もあれば、筆のようなものまで様々。
「どれだけみても、あんたが喜びそうなものはないと思うけど?」
口調とは裏腹にどこか楽しげな航海士の声に、机の上に伸びた指先が小さな筒を突いてみせて。
「これは、すっげー小さいな!」
キラキラと瞳が瞬いた。
ふわりと揺れた橙の髪に、花弁を纏った指先がころんとしたそれを摘めば、
「これはね、おまけでもらったの。」
慣れた手つきで開けられたキャップに、繊細な指先が小さな顎をくいっとあげて。
「ルフィが欲しいなら、あげるわ。」
するり、桃色の唇が光を纏った。

「これな!りっぷくりーむって言うんだって!唇がテカテカになるんだぞ!」
にっと笑った白い歯に、ふっくらとした唇が眩しく瞬く。
女2人から受け取った小さな円柱は唇を保湿する為のものらしく、何やら果実の匂い付き。
飴玉のような香りがするそれを口元に塗りたくる船長に、あげたはいいが勿体無いと言う航海士。それじゃあ、他の人が管理すればいいんじゃない?なんて、声が聞こえた途端に差し出された桃色の円柱。自身に集まる3人の視線。
「で、おれがお前に塗るのか?」
腹巻から出したそれを、既に潤いに満ち満ちている唇にくるりと滑らせれば、
「自分でしたら塗りすぎだって怒られるだろ?」
つやりとした口元がつんと尖る。
クリームを纏ったそこを軽く親指で擦れば、少し熱い体温が指の腹を伝って胸にぼんやりと響いて。
「塗らなくてもいいだろ、これ。」
「でも、うまそうな匂いがするだろ?」
にぃっと見せられた白い歯に、愛らしい恋人に敵うはずないのだと頭を抱える。
「うまそうな匂いがしても、食いもんじゃねェだろ。」
飽きれたように告げれば、きょとんとした瞳がこちらを見上げて。心底、不思議そうに

「ゾロ、おれのこと食べたくなんねェのか?」

艶めいた唇が揺れた。

ぎゅっと心臓を掴まれた心地がして、その後を追うようにわなわなと底から熱が迫り上がる。愛おしくて堪らなくなると、人は声をあげたくなるのだ、なんて今更、知ったところでどうしようもなくて。
「チューしたくなるだろ?」
少し自信なさげに振れた視線に、我慢ができなくて、柔らかな白い頬を手のひらで包めば。

深く甘いキスをした。


にへらと笑った可愛い表情で、
「こんなもんなくても、ゾロはチューしてくれんの知ってるけども。でも、こうしたら、きっといっぱいチューしてくれるってロビンとナミが言ってたんだ!」
なんて告げられて。
「今までの接吻は足りなかったか?」
あまりに純粋な相手にどうしたものかと、ゆったりと息を吸い込めば、
「んーん。」
そう、甘ったるい声が囁いて。
柔らかな唇がちょこんと尖れば、

「ゾロが足りないかなァ、って。」


ぴとり、唇が重なった。








2020.01.01
今年はチューチューの年で御座います。

Happy New Year ... !!







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