Book



もうひとつねると、

(新婚さん設定)


四角い箱に詰めた宝石に願いを込めて。
新たな年をふたりで祝う。


「ゾロ!すごいだろ!」
子どものように胸を張るルフィを見上げれば、キラキラした表情に手の中の重箱が揺れる。
「御節か。」
大掃除終わりのゆったりとした時間。何やら得意げにキッチンに消えた相手の姿を思い出せば、これを見せたかったのかと愛おしさが込み上げる。
「おれが入れたんだぞ!箱に!ちょびっとサンジに手伝ってもらったけど!」
にっと見えた白い歯が愛おしくて、料理下手な相手には到底作れないだろう手の込んだ品々を眺める。
普段はいけすかない悪友の顔を思い浮かべてみるものの、重箱の中に詰め込まれたそれらは恋人から自分へと向けられた愛情だと理解できて、誰の手が加わっていようがどうでもよくて。
「美味そうだ。」
そう素直に笑い返す。

艶やかな黒の漆に包まれた御重の中は、紅のように真っ赤な塗り。時折煌めく金模様に負けない程に愛おしい笑顔。
「これはな、おれがソースかけたやつ!で、こっちは味見してすげー美味かったやつ!」
にししっと笑うその声が耳元を掠める度、幸せで堪らなくなる。
「これはゾロがすきなやつ!しょっぺェからな!」
今すぐ食べるわけでもないのに、楽しげに弾む声があまりに可愛くて。このまま、どうにかしてしまいたくなる。
一通り話し終え、満足したらしい相手を確認して、ひょいと重箱を持ち上げてキッチンに運ぶ。
「明日が楽しみだな。」
そう溢れた声はきっと、とても甘い。

冷蔵庫の扉を閉めれば、既に空腹だと眉を下げる相手に笑って、作り置きしておいたカレー鍋を火にかける。
「少し早いが。まァ、夜中にまた蕎麦も食うしな。」
嬉々として皿とスプーンを用意する恋人の様を横目に、相手のために用意した小さなスパークリングワインをテーブルに並べる。
「おれ用か?」
マスカットが描かれた緑のラベルと、桃が描かれた赤いラベルの2本のボトル。
「2人用だ。」
煌めいた瞳に
「甘いのなら、飲むだろ?」
そう普段は使うことのない背の高いグラスを2つテーブルに並べる。
「ゾロも飲むのか?」
「少しなら、な。」
自分には甘過ぎるだろう小瓶の中の泡を眺めれば、
「どっちがすきかはわからなくて、両方買っちまった。どうせ、どっちも飲むだろ?」
まだ呑んでもいないのに、ふわりと色付いた愛らしい頬が目について。
温まったらしい鍋を混ぜていた手を止める。

「腹拵えしてから?それとも、今から?」
さらりとした指先をそっと引いて、
「ちゅうだけ、今する。」
そう囁いた相手をぎゅうっと強く抱き締めた。

酔えない程に柔らかなアルコール。鼻に抜ける甘ったるい香りは新鮮で。
「ジュースみたいだ!」
そう笑う声に幸福感が満ちる。
自分1人では絶対に手にしない、酒とも呼べない炭酸ワイン。なのに、悪くないと思えるのは、きっと目の前の愛しい人のせい。
「美味しいな!」
鼻を少しだけ赤くして、細めた目元に早く触れたくて。
「甘過ぎるけどな。」
なんて、唇を舐めた。

「カレー食べたら、ベッド行こうな!」
テーブルに肘をついて行儀悪くも笑う、そのほろ酔い顔が愛らしくて。
「おれは今すぐにでもしたいけどな。」
悪怯れることなく相手の真似をして頬杖をつく。
驚いたように見開いた瞳がグラスに映って、すぐにニヘラと表情が砕ければ。
「ゾロ、酔ってんな!」
なんて笑われて。

ちらりと視線の先に捉えた時計を確認して、ベッド後の入浴時間を考える。年越しのカウントダウン前には蕎麦の準備をしないとな、なんて。慣れた思考に自分で笑えば、
「ゾロー。」
甘えた声が耳に届く。
「ゾロ?」
じっとこちらを見つめてくる瞳の中に自分が見えて、
「ルフィ。」
そっと名前を呼び返す。
「片付けてベッド行くぞ。」
にっと歯を見せて手を合わせれば、2人で同時に御馳走様と声に出す。


特別のようで、いつも通り。
なのに、いつもより少しだけ温かい。

2人だけの大晦日。









2019.12.31
今夜は寝ないかもしれないけれど。







Back



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -