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額縁とフィルムカメラ


春というには暑すぎる午後。
何をするでもなくリビングにふたり寝転がれば、ひんやりとしたフローリングが心地良くて。
「もう扇風機がいるな。」
額にしなりと貼りついた黒髪を優しく撫でれば、白い頬が床に押し潰されて、大きな瞳に自分が映る。
「じゃあ、かき氷機も出そう!」
煌めく視線につられて笑えば、競争と言わんばかりに立ち上がって納戸に向かう。

埃除けのためにと箱に押し込まれた扇風機を見つければ、かき氷機を探す。もしかしたら壊れて処分したかもと考え始めた矢先、
「ゾロ、ここだ!ここ!」
可愛い人の跳ねる棚の上、淡い色のイラストが添えられた愛らしい箱が目に入って。
「取ってやるから、待っとけ。」
ぐっと伸ばした腕に引き寄せた箱は思ったよりも少し重くて、足元に置かれた段ボール箱を避けながらの体勢は不安定で、それでいて傍で応援する恋人の願いには応えてやりたくて。力を入れて持ち上げたそれに引っかかっていたのか、小さな黒い何かがコロンと転がって、
「おっと!」
ルフィの手の中に落ちた。

扇風機を箱から出して、かき氷機用の氷を準備する間、不思議な黒い袋をそっと開く。
中に入っていたのは古めかしいフィルムカメラ。
「この前、じいちゃんが置いてったの使わないからって棚の上にやったの忘れてたな!」
子供のように笑う表情に黒髪を掻き混ぜれば、カメラの背面を眺める。
「これ、まだフィルム入ってるな。使えるかはわかんねェけど。」
呟きながら、パシャリ、恋人の笑顔にシャッターを切る。
「あ!ゾロ、ずるい!おれも撮るぞ!」
伸ばされた腕を引き寄せてぎゅうっと抱きしめ、もう1枚。
「なら、外で撮った方が絵になるだろ。」
その言葉を聞き終わる前に立ち上がれば、カメラを手にうきうきとリビングの硝子戸から続くテラスに飛び出す愛しい人。
「帽子ぐらい被ってけ!」
ポールハンガーに掛けられた麦わら帽子を手に笑えば、青空にカメラを向けるその瞳さえ恋しくて。
「ほら、ゾロ!ピースだ!」
急かされるままにポーズだけ取れば、合図なく下りたシャッターに苦笑して。外履きを引っ掛けて庭に出れば、小さな頭に麦わら帽子をかぽりと被せた。
大きな硝子戸越しに見える室内はふたりで住み始めた頃に比べ、物は増えて賑やかで。それでいて、とても心地いい。
「なんかさ。」
ぼんやりとリビングを見つめていた手を引かれて、
「写真立てみたいだよな!この窓!」
告げられた言葉に瞳を細めた。

三脚代わりに庭に置いた扇風機の箱の上、フィルムカメラを丁寧に乗せる。
窓辺に座ったふたりの手には、少し時期の早い冷たいおやつ。大きな額縁にも見える木目調の窓辺に腰掛けて足を伸ばしてレンズを見つめる。
セルフタイマーをかけたカメラをじっと見つめて澄ました顔を向けるも、
「これ、いつカシャってなるんだ?」
「よくわからん。」
ぷっとふたりで吹き出して、しばらくの間ポーズを決めていた自分たちにけたけたと笑う。

パシャリ。
軽やかな音に切り取られた世界は、鮮やか。
額縁の真ん中で、シロップで色付いた舌先を見せ合って、そのまま倒れるようにキスをした。









2019.05.26
額縁のいらないその写真は冷蔵庫へ貼り付けて。

言葉パレット(2-18)「窓辺」「額縁」「写真」
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