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ただ、それだけ


綺麗な星空に大きく明るい月の光。
明日の宴の準備の為か、はたまた何かを気遣ってか自室で過ごすクルー達に、静かすぎる夜は久々で。

甲板に寝転がって見上げた空は何処までも高く広がって。落ちてきそうな光の粒が、隣に並んで転がった愛しい人の瞳に映れば、つやりと潤んでいるようにも見えた。
芝に頬を擦るように相手の方に視線をやれば、同じように此方を向く、まだ幼さすら感じさせる表情。一週間ぶりに入った風呂のせいか、まだ少し火照りの残った肌は、明るい月明かりに桃色に染まる。
そっとのばした指先でさらりとした黒髪を撫でてみれば、くすぐったげに笑う白い歯が可愛くて。嗚呼、何も変わらないと、ほっと息を吐く。

出逢った頃にはなかった胸の傷。少し伸びた身長。短いようで長い、あの離ればなれだった日々。
今更、お前のことを守ってやる、なんて伝えるつもりなんてなくて。ただ、ルフィが欲する時には傍に居たいと、それだけ願って。
2年経とうと変わることのない、愛おしい人の腰を静かに抱き寄せた。

密着した胸元は心地いいほど温かで、もう夜の更けたこの時間、眠りを誘うには充分な力があって。ふわりと欠伸を零せば、同じように大きな口で息を吸う淡い唇。
目尻に溜めた涙をお互い見つめてくすくす笑えば、この幸せな時間に瞳を閉じた。

「ゾロ、寝んのか?」
きょとんと尋ねたその声に、するりと額を合わせて。
「このタイミングで寝るわけねェだろ。」
揺れる睫毛を眺めた。

星降る夜空のその下で、寄せ合った体温は本物で。
嗚呼、傍に居るのだと、また実感して。

「明日は肉いっぱい食おうな!あと、酒!」
にっと笑ったその言葉に明日の夜の宴を思えば、なんともないこの日が愛おしくて。この静かな時間があまりに贅沢だと思われて。
「そうだな。」
細まった瞳に、何故だか心が震える。

明るい月が空を満たせば、もうすぐ、愛おしい人が生まれた日。
派手な花火をあげるわけでも、宝石箱を贈るわけでも、美味い料理を用意する事もないけれど。ただ、この瞬間、傍に居て。体温を分け合って、笑い合う。

「なぁ、ルフィ。」
甘ったるく響いた声に、大きな瞳が瞬いて。

ただ、ただ、

唇を合わせて、瞳を閉じる。



ただ、それだけ。









2019.05.05
それだけで満たされるのよ、私たち。


Happy birthday to Luffy...!!






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