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鳴かないカナリア


航海の途中で立ち寄った島の名は「声亡き街」。

パタパタという草履特有の足音に、いつもの笑顔。普段と変わらず動く口元は忙しくて。
「もう少し、静かに。」
なんて、無音で呟いて、そっと柔らかな唇にキスをした。


航海士の話では、この島は空気中に散った特殊な塵の為に生物の声が空気を伝わらないらしい。体内に響く自らの声だけがやけに煩くて溜息を吐けば、
「さんぽに行こう!」
そう、にっこり笑った恋人に腕を引かれて駆け出した。

声がないだけで、特段変わったところのないレンガ造りの街並みは鮮やかで、馬の蹄の音に、教会の鐘の音が心地よかった。
行く宛てもなく、それでいて、歩を緩めることなく進むルフィの背中が無邪気な子供のようで。堪らなく愛しくて、苦しいほどに切なくて。
引かれる腕に抵抗するように立ち止まって、温かな身体をぎゅうっと正面から抱き締めた。細い路地の真ん中で、カランと何かが落ちる音を聞きながら、ただただ恋人の呼吸と鼓動を腕に捕えて。
「…ゾロ?」
そう、心配げに呟く唇からもあの愛らしい声が聞こえなくて。
ならば、いっそ、塞いでしまおう。ならば、いっそ、奪ってしまおう。

重ねた赤い口元に、震える長い睫毛。
柔らかな手の平がゾロの両頬を包めば、角度を変えて、唇を食んだ。


こつんと合わせた額に
「ばかだな。」
なんて、笑う愛しい人。
「声が聞こえなくても、おれはゾロのこと、わかるぞ!」
目元の傷を細い指が撫でて、ちゅっと目尻に甘いキス。
「ゾロもだろ?」
その自信に満ちた表情が憎らしくて、可愛くて。

「当たり前だ。」
そう告げて駆けだせば、
「ゾロ、迷子になんぞ!」
なんて、聞こえるはずのない声が聞こえた気がした。



嗚呼、その無声をおれだけに。








2016.3.23
いつもの唄を聴かせておくれ。






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