Book



あっちそっちこっち


艶めく爪先に、白い肌。
柔らかな唇に押し付けられるは人差し指。


クルーが揃うキッチンで指を曲げたり伸ばしたり。クスクス笑うその表情が幼くて、愛おしさに頬が緩む。
最近のルフィのお気に入りはスパイごっこ。先日、降り立った島で人気のある読物の主人公がそういうキャラクターだったらしい。あちこちに飾られているポスターやキャラクターグッズに瞳を煌めかせる船長の姿が今、思い出しても愛らしい。太陽の眩しい芝の上、柱に隠れてチョッパーと駆け回るのが最近の日課になって、水鉄砲の流れ弾のせいでろくに昼寝も許してくれない。
そんなルフィのもう1つのお気に入りは指文字。どこで仕入れてきたのか、そのスパイキャラの真似をしようとなんの秩序も法則もなく繰り出されるその動きの意味が、他の仲間に伝わらなくとも、自身には手に取るようにわかって。
夕食後ののんびりした時間、わざわざ部屋の隅に座って視線を向ける相手に苦笑を漏らして。酒瓶を傾けてそちらを見れば、嬉しげに指を動かして、時折楽しげに唇に指を押し付ける。それは「これからいうのは秘密の約束だ」という合図。

食事の感想や、明日の予定、その中に紛れた秘密の約束。
「今夜は9時に2人でお風呂に入ろう!」
なんて、口に出して言えばいいものの、船長にとっては特別で、恋人同士の2人にとっては大切な約束で。
自身のサインはたったのふたつ。拳を胸元で降ろすイエスか、指を摘むように表すノー。

あっちを指して、
「今日は見張り番だ。」
と告げられて。そっちを指して、
「見張りの前にアクアリウムバーに行こう!」
と指先が踊る。
ちょんと桃色の唇に触れた指先に、口元がふわりと微笑んで、
「そのとき、秘密でちゅーしような!」
なんて、クスクス笑われる。

可愛い表情に、膝を抱えて座るルフィが恋しくなって。酒瓶をテーブルに置いて、ちょいちょいと手招いた。
肯定でも否定でもないハンドサインにきょとんと首を傾げた船長を見つめて、根気強く指で空気を掻けば、やっとわかったとばかりに軽い身体がぴょんと立ち上がって、遠慮もせずに飛びついてきて。
「ゾロ、寂しかったんか?」
なんて、クルーの目も気にせずにこにこご機嫌に笑う。

少し伸びた前髪を掻き上げて、白い額を合わせれば、キラキラ光った瞳が眩しくて、ゆっくり瞼を閉じて小さく笑う。
「あっちとかそっちとか、そんなサインより、こっちの方がおれはすきだ。」
そっと囁いた言葉に、細い腰に回した腕に力を込めれば、背中に触れていた腕にぎゅうっと引き寄せられて、ふたりの身体が近くなる。

「ゾロ、ちゅうしよう!」
という言葉を指先で奪って、柔らかな唇に人差し指を当てれば、先程のルフィを真似て指文字を作る。

「見張りの前にアクアリウムバーへ。」


クスリと漏れた笑い声が温かで、軽い身体を抱き上げ扉を出る。約束なんてしなくとも、行きも帰りもずっと一緒。


言葉にしなくてわかっても、その愛しい声で聞きたいのだと、そう指先に込めてそっと囁く。




こっちにおいで、愛しい人。









2017.05.10
あっちでもそっちでもなく、こっち!


Happy birthday to こっちさん!!







Back



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -