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伸縮自在の幼心


小さなベッドの真ん中で、愛しい人は夢を見る。


一味で立ち寄った宿屋。昨晩の敵襲で修繕が必要になったメリー号から離れ、しばしの外泊。
カウンターにて値切り交渉をする航海士の傍ら、愛おしい横顔を眺めれば、視線に気づいたのか甘い瞳に自分が映って、とろりと目元が細まった。隠れるようにふたりの身体の隙間で、いつの間にか繋がれた手に力がこもれば、
「今夜は、ずっと一緒だな!」
なんて、見張り番ですれ違いの多かった、この数日を思い出すように微笑まれて。
あまりの恋しさに胸が張り裂けそうで、今すぐにも抱き締めたくて、唇を舌が這う。

「あんたたちはこの部屋でいいでしょ?」
そう告げられた言葉に、手渡されたルームキー。
「どうにか部屋は取ったけど、空きが少なかったんだから文句はなし!いいわね!」
有無を言わせぬ物言いに、お前が格安でと交渉したからだろう、なんて言えるはずもなく、ふたりだけ違うフロアの一室に進む。
同じドアが並ぶまっすぐな廊下は静かで、ぺたぺたという船長の足音がやけに大きくて、それに合わせて心音が速まる。恋人になって数日。手を繋いだり、抱き締めることはあっても、こうしてふたりきりで夜を過ごす機会はなかなかなくて。キスすらまともに出来なくて。船での共同生活、そうなることは予想できたはずなのに、もどかしくて苦しくて堪らない。
恋い焦がれながらも荷物を抱えた腕では可愛い人の手を引くことは出来なくて、揺れる麦わら帽子にそっと囁く。
「ルフィ。」
名を呼ぶ声だけがふわりと溶けて、でもその先が言えなくて。
振り返った優しい瞳がきらりと光って、からかうように笑えば、まるで心の中まで読まれているようで。
「ゾロ。」
ほわりと柔らかな声に包まれる。

ようやくついた部屋に、中を覗けば、男ふたりには小さすぎるセミダブルベッドがひとつ。
意味が解らず、ドアに書かれた部屋番号を確認するも、自分たちが持っているルームキーが指すのはその部屋で。
「どうしたんだ?」
きょとんとした丸い瞳が愛らしくこちらを見つめる様に、なんだか腹奥が熱くなって、どさりと荷物が落ちる。ちょこんとベッドに腰掛けた細い肩に手が伸びて、そのままゆっくりと恋人をシーツに沈めれば、
「このベッドはおれたちふたりには狭すぎるだろ。」
そう、ベッドに倒れたルフィを見下ろした。
「そういや、そうだな!」
なんて、明るい声があまりに幼くて。柔らかな肌を撫でて、キスしたい欲求を抑えても、
「でも、ぎゅうってしたら大丈夫だ!」
一線を越えてしまいそうなその言葉が胸を締め付ける。

子供のように無邪気な恋人に無理強いする気はなくて。それでも、前に進みたい自分も居て。
白い手首を掴んでシーツに絡めれば、自身の膝もベッドに乗せて、こてんと額を合わせて息を吐く。潰してしまわないようにきちんと身体を浮かせて、低く掠れた声で甘ったるく名前を呼ぶ。きっとこの求愛行動にこの可愛い人は気づかないだろう、そう腹をくくって。
なのに、ちらりと見つめた瞼はきゅうと閉じて。艶めいた唇がふわりと膨らんで。まるで口づけを待っているようで。
予想外の状況にどうしたもんかと身体を固めれば、柔らかな手のひらが緑の髪に触れて、少し強引に引き寄せられて。

ぴとり、唇がつながった。

驚きに離そうとした口元に不機嫌な声が聞こえて、ぱっと開いた視界に真っ黒な瞳が見えて。
「我が儘だな。」
唇を重ねたまま笑えば、手加減せずに、今度は自分からと溺れるようなキスをした。




柔らかな肌に、跳ねるような足取り。
伸びやかな声に、艶めいた唇。
ぴとりと手に張り付いた頬の感触にまた愛おしさが溢れて。

離れられないようにと腰に巻かれた可愛い輪ゴムに、くすりと笑って身体を寄せる。









2017.05.06
どれだけあなたが離れても、引き寄せましょう、この腕で。







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