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悪魔祓いとしゃぼん玉


銀の素敵な玩具をもらって、
それが手錠と気付く間もなく、きっと貴方に囚われて。


湖で過ごす明るい夜。誕生日を祝う宴を終えて、クルーから与えられた、ふたりだけの時間。
水辺に座って、足だけを浸ければとろりとした水がなんだか不思議で。覗き込んだ澄んだ底が近くに見えて、水中に揺れる花が白く瞬いた。隣に腰掛けた大好きな人の体温が、触れもしないのにぼんやりと感じられて、月の光に照らされた横顔が愛おしくて堪らない。
月光に反応したのか、ふわりふわりと笑うように開く花弁は神秘的で。ガラスケースの中に閉じ込められた妖精のようで。クスクスと呟きあうように寄せられた口元から、ふくふくと溢れた泡が水面に触れて、ぽかりとしゃぼんになって舞い上がる。
まるで「私をつかまえて」とでも言いたげな、愛らしい花が欲しくなって。なんだか、こんなロマンチックな夜に不思議な花を贈りたくなって。
欲望に忠実に、水底の宝石に腕を伸ばせば、緑に腰掛けていたはずの腰が浮いて、とぷんと手招かれたように湖に落ちた。
あまりに自然で、あまりに静かで。まるで、水に導かれるように深い澄んだ世界に降り立てば、後を追うように大きな飛沫が上がるのがわかって。思わず口元が笑ってしまう。
「おいで、ゾロ。」
そう、ぽこぽこと泡を吐いたって、きっと聞こえやしないけれど、なんとなくそう呟きたくて、囁いた。
思った以上に遠い水底には、なかなか辿りつけなくて。魅惑の花弁に触れる前に掴まれた手首は、いつも以上に白い。強く引き寄せられた太い腕に、優しい手つきで腰が支えられれば、言いつけ通りに傍にきたゾロの髪を撫でようとして、やめた。だって、きっとこの愛しい人はキスの方がすきだから。
ぐんと重い身体に圧がかかって、瞬時、目の前に満天の星空が広がれば、しゃぼんが輝く空気が肺を満たす。

心配げに覗きこまれた瞳がまっすぐで、熱くて。
「あの花、摘もうと思ったのに。」
と唇を尖らせ少しおどければ、
「水の中はやめとけ。」
なんて、甘い溜息。
「でも、この水ならいける気がしたんだ!」
そう胸を張って、思ったままを告げれば、
「なら、今度は先に言ってから飛び込んでくれ。」
今度は優しい瞳に自分が映った。

濡れた身体のまま、また同じように座りなおして脚を揺らせば、ゾロの拳が気になって。今日が自分の生まれた日だと思い出す。
「ゾロ。」
優しすぎる恋人を見つめて、さっきのお返しにと瞳の中に相手を捕えて、
「おれ、ゾロがくれるもんなら、なんでもうれしいぞ。」
そう笑って見せた。

そっと差し出した小さな輪っかは、シンプルなシルバーリング。普段、つけることのないアクセサリーの新鮮さと、月に反射する柔らかな光が心を掴んで。
リングの穴越しに月を見上げる。こんなに幸せな夜をありがとう、とお月様にお礼を言いたくて。ふと、目についた湖から湧き上がるしゃぼん玉にはっとして。
「ゾロ、見てみろ!」
恋人の視線を奪って、そっと胸に澄んだ空気を吸い込んだ。

花の蜜が溶けた湖の水にリングを浸けて、小さな円に張った膜にすうっと息を吹きかければ、一際、大きなしゃぼん玉が生まれて舞った。
ああ、こんな綺麗な夜ならガラスケースに詰め込んで、取っておきたいと考えて。いや、いっそ、この世界に留まっていたいと瞳を潤ませて。


ひらりひらりと舞い上がるしゃぼんに、月明かりに浮かぶ綺麗な横顔。
全てが美しくて澄んで見えて。
自分の生まれた日なんて忘れて、この場に留まるためだけに、長い長いキスをした。


心の奥底に住む悪魔がいるなら、きっと今だけは現れない。だって、こんなに近くになんでも捕らえてしまう美しい瞳があるんだから。








2017.05.05
僕の中をきらきらでいっぱいにしてくれる。そんな貴方はきっと、僕だけの悪魔祓い。


Happy birthday to LUFFY!!






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