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湯気隠し

(新婚さん設定)


白い世界の真ん中で、君とふたりで熱を分ける。


「ゾロ!はみがきか?」
ガラリと勢いよく開いた扉に、浴室から覗くルフィの頭にはふわふわとした泡が乗っていて。細く柔らかな腰つきに白い背中が見えれば、心がぐっと引き寄せられた。

恋人の入浴中、する事もなくそろそろ歯でも磨くかと時計を見上げてやってきた脱衣所も兼ねた洗面スペース。白地に赤と緑のラインが入ったプラスチックカップに刺さっているのは、お揃いの歯ブラシ。兼用の歯磨き粉をブラシに乗せて口内を滑らせれば、買い物中に交わした恋人との会話が頭を過って。
「明日からは、みかん味のちゅーだ!」
そう笑って、買い物カゴに入れられたチューブにはでかでかとオレンジのイラスト。
口に広がる香りは、確かに爽やかな橙。濯いだ口の中はほんのりと甘くて、可愛い人が喜びそうだと微笑んだ。

その瞬間、浴室の戸が開いてシャワーの音が騒がしくなる。ほわりと溢れた温かな湯気に視界が曇るも、次いで目に入った無防備な格好のルフィが愛おしくて、
「扉開けてると、寒いだろ?」
なんて、穏やかな声が漏れて。
「でも、せっかくゾロが近くにいんのに顔見れない方がいやだ!」
尖らせた真っ赤な唇に、ぽたぽたと顎から滴る滴。そのひとつひとつが夢のように美しくて。泡だらけの髪でさえ、御伽話に出てくる愛らしい帽子のように思えて。くりくりと丸い瞳に意地悪く、
「でも、おれはベッドに行くけどな。」
と呟けば、はっとしたように更に大きくなる黒い宝石。
「なら、おれもいく!」
焦ったように勢いよく被った湯飛沫が脱衣所まで飛んできて。少しの時間でも離れたくないという意志表示が可愛くないはずなくて。

濡れるのもかまわず、細い背中を抱き締めた。

「どこにも行かないから、もっと温まれ。」
小さなはずの言葉が浴室に響いて、ふたりの身体を包み込む。

驚いたように向けられた視線に、ふわりと細まる目元が綺麗で。
ほわほわと舞う湯気に隠れて、そっと赤い唇に口付けた。


ふたりから立つ熱い想いが虚像に目隠しするように、洗面台の鏡を塗り潰す。









2017.1.27
誰にも見せたくないからと鏡の世界に蓋をして。







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