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星を添えた満月魚

(猫鯉・妖怪設定)


真ん丸に膨らんだお月様を見上げれば、きらきら舞う星が掴めそうで。
ふたり一緒に、手を伸ばした。


赤い橋の掛かった丸池の真ん中に、睡蓮の花に劣らず真っ白な満月が浮かべば、静かなはずの夜の空気が笑い声に揺れた。
「そんなのいるのか!」
ケタケタ明るい声の主は、尾鰭を激しく動かして楽しげに猫を見上げる。
「聞いた話じゃ、ここより大きなウミって名前の池にはいるらしい。途方もなくでかくて、しょっぺェ池にな。」
普段はしかめ面ばかりの眉間に、今は皺がなくて。機嫌が良いのを隠そうにも、三角の耳がぴくぴくと動く。
どちらも一見人間のようなのに、片一方は半身魚。もう一方は猫の耳と尻尾があって。瞬く星に相まって、まるで巻物の中の画のようで。
「ゾロ、おれが池から出れねェからって、嘘ついてるんだろ!」
怒るでもなく向けられた笑顔に、鋭い八重歯がきらりと光って、
「ルフィが信じねェなら、次の土産に持ってきてやる。」
そう長い尾が柔らかな頬を撫でた。

ゾロの話によれば、広い広い塩辛い池に、プックリ真ん丸な魚がいるらしい。
「こんなんか?」
頬に空気を溜めて見せるルフィの顔が幼くて、
「どうだろうな。」
ゾロの目元が細まった。
「お月さんみたいに真ん丸で小さな鰭で泳ぐらしい。」
旅商人からの話を思い出せば、尖った爪を仕舞い込んで、膨らんだ丸い頬にそっと触れれて。ふやけた麩のようにとろけた肌が指に吸いついて、ぽたり、滴が地面に落ちた。
安心したようにゾロの膝に乗せられた小さな頭が振れれば、ふと思い出したようにルフィの瞳が大きくなって、
「ウミって場所にはいつ行くんだ?」
なんて、不安げに声が細くなって。
「ゾロが知らねェくらい遠くにあるなら、きっと此処にすぐには来れなくなっちまうだろ?それなら・・・そんなに急いで探しに行かなくてもいい。」
きゅっと腰に抱きついた細い腕に力が籠もって、寂しげに揺れる瞳を隠すように白い額が固い腹に押し当てられた。声を大きくしては言わないけれど、ひとりぼっちが嫌いな可愛い池の鯉は天敵であるはずの猫を欲して、離さなくて。
「なら、」
小さく低く呟いた声は温かで、愛しい人に向ける視線は何とも穏やか。
「お前が空を瞬く星屑を拾ってから、ウミに出掛けることにする。」
そんなこと出来やしないなんて、きっとこの純真無垢な存在は考えていなくて。
「じゃあ、結構先になりそうだ!」
なんて、ほっとしたように囁いて。

「星と不思議魚が見つかったら、一緒に食べような!」
そう浮かんだ表情が愛らしくて、くすりと笑えばそっと息を吐く。

見上げた星は手を伸ばせば届きそうで、落ちてくるなと切に願って。
紅を塗ったかのように赤い唇に、静かにそっと口付けた。




果てなく膨らむ心地よい時間に、痺れるように増す愛おしさ。
嗚呼、なんという幸福。

嗚呼、なんという、甘毒。









2017.01.14
痺れるその舌先で膨らむ愛を堰き止めて。


Happey birthday to まもるさん!!







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