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甘味桶



さらりと冷えた夜風に、橙と紫のリボンが絡まるように舞った。


頼まれたおつかいは、インクと海図用紙で。
墨と黴の匂いが鼻を擽る店内で、渡されたメモをそのまま店員に見せれば、大きな箱にどかりと纏めて目の前に置かれて。今更ながら、この重量を思っての猫撫で声だったのか、と朝、航海士に告げられた言葉を思い出す。
「残ったお金は任せるわ。」
そう揺れた唇通り、手元に残った額は申し訳程度ではあるが、いつもの小遣いに比べれば高額で。
ふと頭を過ぎった、いつもよりランク上の酒瓶に喉が鳴れば、道端のワゴンに並んだお菓子入りのバケツが目に入って。

重い箱を肩に担いで、気付けば片手に愛らしいバケツと、いつも通りの酒瓶一本。


「おかえり、ゾロ。」
と飛びついてきた愛らしい人を腹部で受けて、髪についた木の葉をふうと吹き飛ばせば、
「今日はどんな冒険をしてきたんだ?」
と問うてみる。
町外れの林の中、可笑しな鳴き声の鳥と追いかけっこした話に、少しせっかちなドングリを拾った話。どれもあまりに子供っぽいのに、愛おしくて仕方がなくて。きらきら輝く宝石のような瞳に、ふわりと空気に溶ける声が甘くて。零れた笑みに、そっとキスをした。
いきなりの口付けに、ぱちくりと瞬いた後に漏れた笑顔が温かで。冷たくなり始めた秋風にほんわり心が熱を持った。
「ゾロは、なにしてたんだ?」
と手の平の上でまだ青いドングリを転がしながら尋ねられれば、背中に隠したお土産を思い出して。
「ナミの手伝いをして、その後、酒を買ってきた。あと、」
橙色のリボンがついた大きなバケツを差し出せば、
「これは、お前に。」
ぱっと瞳が大きく開いて、また、あの愛らしい表情に包まれて。
「ゾロ、ありがとう!」
その一言に、一口含んだいつもの酒が、格段に上手く感じた。



「ルフィ、おつかい頼めるかしら?」
そう柔らかな声が聞こえれば、さらりとした黒髪が揺れて。
「いいぞ、ロビン!」
そう元気な返事が秋空に響いた。
頼まれものは、一冊の書物。
「自分で買いに出たいのだけど、今日はチョッパーの手伝いをする約束なの。」
そう微笑んだ瞳が綺麗で、
「少し多く渡しておくから、お釣りはお任せするわ。」
渡された紙幣に、コクンと頷いた。

カランと心地いい乾いたドアベルの音に、軋む木製の床。焦げ茶色の本棚に並ぶ深い色の背表紙が、まるで今は色あせた虹の断片のようで。鞄代わりのオレンジリボンがついたバケツから、今朝、受け取ったばかりのメモを探せば、腰の曲がった亭主に手渡して。
店に不釣り合いなほど明るい緋色の包装紙に綺麗に包まれた書物をバケツに押し込めば、手の平に返ってきた数枚のコインを握りしめて、肉屋を目指す。冷たく頬を撫でる夕風に、熱々のメンチカツを思い浮かべれば、口に唾液が溢れて。無意識に駆け出せば。

ふわり、紫のリボンが視界の端で揺れた。


「ただいま!」
と駆けてくる可愛い恋人を抱き締めれば、頬についたソースを親指で拭って、そっと瞳を覗き込む。
「今日は冒険じゃなくて、肉屋荒らしか?」
そう、からかうように柔らかな髪を掻き上げれば、白い額に口付けて。
「しっけいだな!ちゃんと、おつかいしたんだぞ!」
なんて、ぷくりと膨れる頬が食べてしまいたいくらいに愛らしくて。
「そのあとカツでも買い食いしたんだろ?」
まるで、一部始終を見ていたかのように話すゾロは何故だか幸せそう。
ぎゅうっと腰に回された腕でふたりの距離が短くなって、ぴとり、身体が触れて。
「で、その包みはおれへの土産か?」
自惚れとも取れる言葉に、黒いふたつの宝石がちらり揺れて。小さい頭が頷いた。

かさりと開いた包装紙の中には、ルフィが腕に掛けているものとお揃いの菓子に溢れた可愛いバケツ。
酒かツマミだろうと考えていたゾロの瞳が見開いて、そして、ふわりと細まって。

自分がもらって嬉しかったものを土産に選ぶのが、恋人らしくて。お揃いのバケツを手に出掛けるふたりの姿を考えれば、滑稽以上に、何故だか幸せで。

「ありがとう。大切にする。」
そう、温かな頬を撫でれば、


ぴとり唇を合わせた。


色違いのバケツを傍に、お菓子をパクリ。
甘ったるいチョコレートに眉間に皺を寄せれば「お口直しに」と、お菓子以上に甘い唇が触れて。
凛とした空気に熱を分け合うように、どちらともなく身体を重ねた。








2016.10.22
お揃いのバケツの中には、溢れるふたりの愛がたっぷり。

Happey birthday to ことさん!!







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