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狐の灯籠


きらり、雨粒が光る花弁は不安になるほど真っ赤に燃えて。


お天道様が覗く空から、涙が溢れて。今日はなんだか不思議なお天気。
くるりと回った傘に、水たまりを飛び越える軽やかな長靴。
鳴きもせず静かに跳ねる蛙を追いかけて、草木の間を歩けば、きらきらと舞う雨にうきうきとして。小さく開いた唇から鼻歌が漏れる。
少し離れた船から届く、微かなバイオリンの音に、土を踊る雨粒のリズムが心地よくて。
細い土道を進めば、畑や田んぼが目に入って。大きなカボチャに、ころんと実ったサツマイモが愛らしくて、その場に屈んで濡れた恵みを眺めてみる。雨から逃げるように慌てて、家を目指す赤トンボを傘の中に招き入れれば、ふわりと風に頬を撫でられた。
秋風に誘われて顔を上げれば、ちらり、目の端に入った真っ赤な華。
真っ直ぐな茎の凛とした佇まいに、複雑に伸びた花弁がまるで覇気を纏った想い人のようで、ほわり、唇が寂しくなる。


狐の嫁入りなんて珍しい、と散歩に出てきたはいいが当てもなく。暫く歩けば苔の生えた岩がまた見えて、同一のものだと気付かずに「よく似た石の多い場所だな」と進み続ける。
傘など持つのが面倒で、帰って風呂にでも入ろうと濡れた髪を掻き上げ、空を見上げれば、瞬きながら落ちてくる宝石が、まるで愛しい人の瞳の輝きのようで。途端に、あの体温が恋しくなる。
微かに聞こえる優雅な弦の歌声に、可愛い笑顔と愛らしい声が思い出されて。
ふと目に付いたのは、道端に並び咲く真紅の花。
鮮やかな赤色に炎のようなシルエットが、愛しい人を想わせて。ふわりと胸が熱くなる。


心が欲して堪らなくて、背中を押されるように駆け出せば、弱くなった雨の中、水滴を落とす草木を抜けて、まるで目的地を知っているかのように進む。白い太陽に照らされた苔の匂いが鼻先を掠めれば、思い浮かべていた相手が岩の陰から現れて。
名前を呼びあって、ひとつの傘の中、ぎゅうっと強く抱き締めた。

「ゾロ、びちゃびちゃだ!」
とけたりと笑う柔らかな頬を撫でれば、
「お前もな。」
なんて、温かな息が零れて。


「見せたいものがあるんだ。」
触れた手は柔らかで、
「ゾロがアシュラしてるのに、似てるんだ!」
そう話す声は幸せそうに弾んでいて。

「おれも、お前に似た花を見つけたぞ。」
傘をさしながら、微笑む視線はとても甘い。




太陽から伸びる光の帯が広がれば、雨がようやく止んで。楽しげな声がひんやりした空気に溶けた。


お互いに絡めた視線は熱くて、近づけた唇は、触れてしまいそう。
手を繋ぐことなく、寄り添う、その様はまるで。




ふたり歩く道の端、並んで揺れる彼岸花。









2016.9.29
赤く揺れるそれは、まるで誰かを誘う温かな灯籠。







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