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唇の憂鬱

(新婚さんZL)


愛していると呟く言葉が恋しくて。


旦那様の帰りを待つ、愛らしい奥様はふりふり可愛いエプロン姿。だぼだぼのシャツにお尻を隠して、ホットパンツも履いていない白い脚が露わになる。
所謂、彼シャツにエプロンをつけたその格好は滑稽ですらあるのに、ルフィの表情は何故か厳しくて。

「ただいま。」
と響く大好きな落ち着いた声に、
「おかえりなさい!」
と飛びつけば、いつもと違う服装にゾロの瞳が真ん丸に開く。

「この格好は?」
なんて、優しく髪を撫でる手に抱き上げられて、玄関からリビングのソファーまで一直線。
「こういうのが、すきなんだろ?」
真っ黒な宝石に見つめられれば、呆れたように甘い溜息が漏れて。
「どんなお前でも、おれはすきだって知ってるだろ?」
そう額に口付けて、するりと背中のリボンが外されて。


出会って、手を繋いでデートをして。
お付き合いしてハグをして。
一緒に暮らして甘い夜を何度も過ごしたのに。

どうしてなのか、重ねてくれない唇が気になって。
「ゾロがちゅうしてくれない。」
と、大切な仲間に一斉メール。

「雰囲気作りじゃない?」
一番を切っての一言に始まり、最終的に纏まったのは「旦那様が好むだろう装いでぎゅうとハグする作戦」で。


向かい合うように座ったソファーの上、更に距離を詰めようと、広い背中に腕を回す。少し汗ばんだ首筋にちゅっと吸いついて、小さな声で名前を呼べば、さらりと脱がされた純白のエプロン。隙間なく合わせた身体にふたりの心音が重なって、胸が跳ねる。

黒髪を滑る指が熱くて、愛しくて、泣きたくなる。嗚呼、大好きなんだなぁ、なんて。まるで他人事みたいな不思議な心地で瞳を閉じれば。

「・・・ルフィ」
といつも以上に柔らかな声が耳を掠めて、そっと肩を押し離されて。
嫌だ、と駄々をこねるようにしがみつく。
「今日は、ずっと、こうしてるんだ!」
自分から「キスしたい」と告げるのは、なんだか違う気がしてできなくて。ただ、その強い想いが胸につっかえて苦しくて。

ぽたり、涙が落ちる。

「作戦、なんだ。」
聞こえないほどの小さな声で呟けば、腕に力が籠もって。
「ゾロが、すきだから、ずっと、こうしてる。」


小さく漏れた笑い声に、両頬を包む温かな手の平。
こつんと合わさった額に、ふたりの睫毛が触れ合って。

「これじゃあ近すぎて、キスできないだろ?」


ぴとり、唇が奪われた。


幸せにぽろぽろ溢れる涙に、恋いこがれたはずのキスが止め処なく送られて。
気付けばソファーに転がって、ふたり一緒にクッションに沈む。


「大好きな声を奪うのが惜しくて、口付けできなかった」なんて。「眠ったすきに、毎晩、キスしていた」なんて。
素直に言えれば苦労しないわけで。




柔らかな肌をそっと撫でて、
「愛している」と囁いて。

名前を呼ぼうと開かれた唇を、
塞ぐように、そっと奪った。








2016.09.27
一斉メールの宛先は、確認してから送るように。
(他の奴らは気付いていただろ。)

Happy birthday to めめさん!!







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