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天使の通り道


さらりと差し込む日の光が、まるで雲の隙間から洩れる銀色の砂のようで。

ほわりと湯気立つ珈琲の香りに包まれて、ほっと一息つけば。愛しい人の優しい笑みが愛しくて。泣きたくなるほどの幸せを噛みしめた。


今日は珍しく朝からモーニングデート。
昨晩、ベッドの中で読んだ雑誌の記事が気になって、ふたり一緒に調べた住所。
逆さに見ていた地図のせいで、予定より到着は遅れたものの、きちんとついたカントリー調の愛らしい喫茶店。

カランというドアベルの音に、
「お好きな席へ。」
と静かに響く亭主の声が心地よくて。

様々なデザインの椅子やテーブルが並ぶ店内を見渡して、窓際のソファーに腰を下ろす。それぞれのテーブルごとに違うデザインの椅子や小物があてがわれてはいるが、落ち着いた統一感で満ちたこの空間は、まるで子供の頃の隠れ家のようで。
「雑誌で見たより、かっこいいな!」
と店内をきょろきょろと見回す可愛い人に微笑めば、卓端に置かれたメニューを開く。

飾りっけのない卵のサンドイッチに、甘い香りが漂ってきそうなジャムサンド。ケチャップたっぷりのホットドックに、ピザトースト。
「おれ、これがいい!」
と指さした写真は、昨晩、雑誌で見たとろりと美味しそうな半熟卵の乗ったトースト。
「おれは珈琲だけでいい。」
と告げる前に、
「ゾロは、これだな!」
なんて勝手に選ばれてしまえば、仕方ないなと甘い溜息をついて、オーダーを伝える。


白いブラインドから溢れた木漏れ日が、きらきらと愛しい笑顔に瞬いて。
ココアの甘ったるい香りが鼻を擽る。

口にした珈琲の程良い苦みに、小さく息を吐けば、ココアをすする尖った唇に目がいって、
「ちゃんと冷ませよ。」
と苦笑した。

ホワイトソースの塗られたトーストをかじれば、口の中に広がるふわりとした甘み。
水滴のついたサラダは、ドレッシングの酸味が舌を踊って、空腹だった身体を満たす。


外の光に照らされた可愛い人が、いつもに比べて繊細に見えて。まるで、硝子細工のようで。


トーストを頬張りながらも、ぱちりと合った視線に、にっこりと笑われれば。


「幸せだな。」

なんて、


泣きたくなるほど甘い声が空気を揺らした。








2016.09.24
メニューにかかれた名前を見れば、クロックムッシュとクロックマダム。








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