New world



嗚呼、なんて甘いこと。



愛しい貴方を求めて
そっと鼻先を埋めた衣服からは
何故だか甘い香りがして。




遠くなる海面を見上げれば、そっと腰を抱き寄せられて、綺麗だな、なんて。
「1回見たんだろ?」
そうからかうように呟いて、久しぶりのその肩に頭を傾けた。

「さっきはルフィが隣にいなかった。」
そう返して笑う恋人が、なんとなく憎らしくて。
幸せだった。

温かなこの体温を忘れたことなんて一度もなかった。優しいこの声を聞きたくて堪らなかった。

「ゾロは、馬鹿だなぁ…。」
そう強がって呟けば、なんだかゾロが欲しくなって。少し強引に着物を掴んで、正面から抱き付いた。着崩した衣服の隙間から覗く胸へと顔を埋めれば、熱いぐらいの体温が直接頬に触れて、ふわりと心が溶けた気がした。

「もう、どこにも行かないぞ。」
そっと告げた言葉は何故だか少し震えたけれど、ゾロは気付いていないふりをして、ぎゅっとおれを抱く腕に力を込めた。


鼻を擽る海水の香りに、仄かに残るアルコール臭。汗に混ざる鉄の香りに、温かな太陽の匂い。
そんないつもの、だいすきなゾロの匂いの中に、隠れるように香るのは、恋人には珍しい甘い甘いスイーツの匂い。

「ゾロ、お菓子食ったのか?」
と不思議に思って見上げた瞳は以前よりもまた大人びていて、まだまだ子供な自分がなんだか恥ずかしくて、また視線を逸らせて顔を隠した。

優しく笑った吐息が、おれの髪を揺らして、そっと触れた手のひらが、おれの頬を撫でた。
温かな指先がふわりとおれの顎を上げて、見つめ合う、その表情が甘ったるくて。おれの心はふるふる揺れて、何故だか涙が零れそうで、

我慢出来ずに、唇を合わせた。


そっと引き寄せられた後頭部に、唇が深くなって、甲板の隅でみんなに隠れて、躊躇うことなく舌を絡めた。


「ほら、こういうの好きだろ?土産だ。」
唇を離して、名残惜しげに太い首筋に頬を擦り寄せていれば、袂から小さな包みを出して、ゾロがおれの耳元にちゅっと啄むようなキスをした。
大きな手の中にあるのは、見覚えのあるパッケージ。ぱちくりと瞬いて、受け取ったそれは確かに2年前に買って食べた"グラチョコ"。

「ルフィを捜してる時に、見付けて買ったんだ。喜ぶかと思ってな。」
ピリリと破った袋から零れるのは、優しいチョコレートの香り。
ぱくりと口に含めば、ふわりと広がる甘さは2年前と同じで。おれを見つめて笑うその甘ったるい表情は2年前より愛しくて。


2年間、抑えていた何かが、今すぐにでも溢れてしまいそうで。

おれは、甘ったるい唇をもう一度、恋人に押し付けた。







2年経っても変わらない
貴方の声、貴方の瞳、貴方の香り。

何より、一番可笑しいのは、
前よりもっと貴方が私に甘いこと。










2013/01/06
/ベッドの中で呟く君の唇の、嗚呼、なんて甘いこと。




*


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