小さな背中
(映画Z公開記念)
おれは強くなった、はず、なんだ。
海列車に揺られて眠る船長を、人混みに紛れないようにと、そっと抱き寄せた。
包帯に包まれた身体は、以前と変わらず柔らかで、小さくて。細い肩に撃ち込まれた海楼石の弾丸が憎くて。今の俺でさえ、この愛しい人を守れやしないのか、と悔しさで胸が震えた。
ドック島について、意識を取り戻してからも、ルフィの瞳は揺れていて。
「ルフィ…。」
堤防に腰掛けた、小さな背中にそっと呼びかけて抱き締めれば、ぎゅっと腕の中の身体が強張って、ポタポタと俺の袖に染みを作った。
泣き顔を見せまいと、顔を伏せる恋人の項に唇を付けて
「お前は強いぞ。」
そう囁いた。
守ってやりたい。甘やかしてやりたい。
でも、それは俺のエゴでしかなくて。この涙が流れる理由はきっと恐怖や怯えではない、と俺は知っているから。
今、負けるわけにはいかないのだ、と。仲間を守らなければならないのだ、と。そんな想いを全て背負いこんで、これほど傷ついて尚、自分の力を責めているのだ。
コイツは強い男だから。
だからこそ、抱き締めてやらなきゃいけないんだ。だからこそ、愛してやらなきゃいけないんだ。
少し強引に腕を引いて、正面から抱いて、キスをした。
お前なら大丈夫。
俺の認めた男なんだから。
唇と唇で会話して。
少し赤くなった頬を撫でれば、甘い甘い声が、またキスを強請って。
涙を拭いて、立ち上がったその手を握れば、ふわりと静かな笑みが向けられて。力強く握り返された拳に引かれて、俺達は駆け出した。
その先が地獄の果てであったって、俺はいつまでもお前の隣で手を握ってやるよ。そう、決意して、
俺はコートの襟を直した。
君が背負う責任やら不安を
ほんの少しでも軽く出来るなら
僕は空だって飛べる気がするのです。
それは冗談なんかじゃなくて
本当に。
2012/12/28
/小さな背中を抱き締めて、そっとそっと、熱を分けた。
*
[ 7/20 ][prev] [next]
Back