不完全な呪文
すきですきで堪らなくて。
大好きだ、と言葉にしたって全然足りなくて。どうしたらいい?と尋ねたおれに、ゾロは小さく笑ってキスをした。
「ごまかすなよっ」
と厚い胸に顔を押し付けて、頬を膨らませば、またあの大好きな笑い声が耳に響いて。ずるいな、と思いながらも赤くなった顔をゾロの肩に擦り付けた。
「キスでもすりゃ解決するかと思ったんだが…駄目だな。」
そうおれの髪を撫でたゾロが、ぎゅっと強くおれを抱き締めて。
「俺も足んねぇよ。」
そう呟いただけなのに、なんだかおれは満足して。なんだか、幸せでいっぱいになって。
嗚呼、ゾロにもわかんねぇのか、なんて、ふぅっと息を吐けば、心のモヤモヤが少しだけ晴れた気がした。
身体を密着させて、熱を分け合って。それでも、全くと言っていい程に、おれたちの大きな愛は満たされなくて。
本当にすきで我慢出来ないんだなぁ、なんて、人事みたいに考えて。おれと同じくらい、ゾロはおれがすきなんだろうな、と小さく笑みが漏れれば、
意地悪をしようと、強引に身体を離した。
名残惜しげに宙に残ったゾロの腕が、とてもとても愛しくて。驚いたような、寂しげな瞳に触れたくて。
でも、決して強引に抱き直してこない恋人に律儀すぎるぞ、と我が儘だけど、むくれて。
「ぎゅってすんの、禁止。」
本当はしたいくせに、静かに頷くその深い瞳が憎らしくて。
「ちゅうも、禁止。」
そう付け足して、腕を組んでゾロに背中を向ければ、自分で言った傍から、なんだか腕がムズムズして。
「あいしてる。」
そう、まだまだ足りない言葉が背中に聞こえて。
おれの真後ろに立った、大好きな人の体温が、触れてもいないのに、熱く感じて。
きっとゾロも抱き締めたくて、うずうずしてる。
ぎゅうってして、キスしたくてドキドキしてる。
そう思ったら、胸の奥がキューっと痛んで、涙が零れそうで、
「そんなんじゃ足りない…!」
そう、振り返ってキスをした。
「キスとハグは駄目なんじゃなかったか?」
そう、意地悪に笑う恋人に、からかわれたのだと知ったのは、その日の夜のベットの上。
「足りないなら、満ちるまで、永遠に傍にいてくれ。」
なんて、さらりと呟かれた呪文に、きっとおれは永久に捕らわれたまま。
でも、それでいいと思えるのは、きっと、ゾロもおれから逃げられない、とわかっているから。
2人が呟く魔法の呪文は不完全。
だから、何度も唱えて、何度も何度も確認するの。
不安だからじゃないのよ。
疑うわけじゃないのよ。
ただ、ただ、
まだ、まだ、
足りないだけ…!
2012/12/27
/不完全な呪文を唱えたら、貴方は物足りないと唇を尖らせた。
*
[ 6/20 ][prev] [next]
Back