New world



雪の結晶

(ZL←S)




君の事が好きだ、なんて
僕の口からは決して言えない。




チョッパーの誕生日を兼ねて祝うクリスマスは賑やかで、寒い看板も何だか暖かく感じられた。
特大ケーキの蝋燭を吹き消して、みんなからのプレゼントに瞳を輝かす船医の隣、まるで自分の誕生日みたいに笑う船長が愛しくて、もやもやとした気持ちを吐き出そうと煙草に火を着けた。
ふわりと上がった紫煙が空に消えて、嗚呼なんて静かなのだろう、と俺は1人、煩いほどの甲板の隅に腰掛けた。

わいわいと騒ぐ野郎の声なんて、俺の耳には全くといっていいほど入ってこなくて。俺の瞳に映るのは、クソ剣士からのクリスマスプレゼントにはしゃぐ恋しくて堪らない、あの小さなキャプテンだけで。


嗚呼、あの瞳が俺だけに向けば。
あの唇が、そっとそっと、俺を求めれば…

そう考えて、また小さく煙を吐き出す。
叶いやしないこの恋は、届きやしないこの想いは、寒い夜の雪のように溶けてしまえばいいのに。
そう考えていれば、皮肉にもチラチラと真っ白な雪の妖精が舞い降りて、俺の肩にふわりと乗った。チラチラと反射する、その繊細な結晶は俺の冷めた体温でも、小さな小さな水滴になって、コロリとスーツを転げた。


ポタリと落ちたその宝石が、まるで笑っているようで。

「奪ってしまえばいいじゃない?」
そう妖精が小さな声で呟いた気がした。

「この寒空の下、抱き締めて、温めて。」
あぁ、わかっているんだ。そんなこと、


「そっとキスをすれば、いいのに。」
出来ないんだって。


賑やかなはずの仲間の声が遠退いて、透き通った穢れのない声だけが俺を満たして。


ふらりと立ち上がれば、煙草を消して。疲れているんだ、きっと。そう頭を横に振って、水でも取りに行こうとクルーに背を向ければ、

ふわりと背中に温かな感覚。


「…サンジ。」
透き通った声で呼ばれれば、なんだか胸がきゅうっと痛んで。

「雪、一緒に見ないのか?」
穢れのない、あの声が耳を掠めて。


頼むから、惑わせないでくれ。
頼むから、もう、触れないで。


「なぁ、サンジ。」
甘い甘いルフィの声が、あの妖精の囁きにあまりにもそっくりで。


「やめてくれ。」


そっと背中の想い人を振り切って駆け出せば、強い風がビューと吹いて、意気地無し!そう叩かれたように頬がキンッと痛んだ。

ただ、仲間としてじゃれついて。ただの仲間として、一緒に楽しもう、なんて。わかっているんだ。あの真ん丸な瞳が告げる本心くらい。
なのに、俺は自分の狂った熱で、まるで雪の結晶みたいに綺麗なお前を、ぐちゃぐちゃに溶かしてしまうんじゃないかと不安で不安で仕方がないんだ。




これだけ欲して、これだけ愛して、
なのに、一言も想いを告げることができない
臆病者の俺の涙は
どれだけ冷えた心に触れても
あれほど綺麗な雪の粒にはなれなくて。


ポタポタと濡れる床に跳ねる水滴は
馬鹿ね、そう笑う妖精のステップのようだった。




嗚呼、妖精のような君をこの手の平に閉じ込めたくて。










/雪の結晶をそっと抱き締めて、あいしてる、そう囁ける大地が羨ましいと、凍った湖は泣いた。
2012/12/25




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