New world



バースデーキス*



甘い香りにコトコト揺れる大きなお鍋。
今日は大好きな人の生まれた日!



テーブルの上に赤と緑の色違いのランチョンマットを用意して。ちぎったレタスとプチトマトを添えたお皿の上に、少し焦げたハンバーグを飾れば、メインディッシュの出来上がり。
「なかなかだなっ!」
そう微笑んだルフィの頬には、調理中についたご飯粒。

旦那様の帰りを待つ間だって、気が抜けなくて。
玄関へ続く廊下を行ったり来たり。
背中に隠した両の手の平をギュッと結んで、愛しい人の帰りを待つ、このひと時さえ楽しくて。




「今日はいつもよりもゆっくり、でも早く帰ってくること!」
可愛い奥さんが玄関先で告げた無理難題の真意は、職場の机に積まれたお菓子の山を見るまで忘れていて。
「誕生日、か。」
と他人事のように言葉が洩れた。


自宅で待つ相手を思って、いつもより歩くスピードを緩めて帰路を進む。ガサゴソと鳴るコンビニ袋に詰められた、たくさんのお菓子を見つめれば、愛しい人の顔が浮かんで自然と笑みが溢れた。

どんなプレゼントを考えてくれているのだろう。おれはただルフィがいてくれるだけで幸せなのに。
それ以上の幸福を詰めて、丁寧にも不器用にリボンをかけて、あいつはおれに驚きをくれるんだ。

そう考えて、ガチャリと玄関の扉を開けば、




「ゾロ、お誕生日、おめでとう!!」

ルフィの手からふわりと舞った紙吹雪が、おれの頭に降ってきて。飛びついてきた温かな身体を抱き止めれば、そういえば、とばかりに小さな声で
「あと…おかえり。」
と耳元で囁く可愛い人。

くすりと笑って、黒髪をそっと撫でれば
「かっこいいだろ!全部、酒の形にしたんだぞ!」
なんて、床に散らばる歪な形の色紙を指差して、ルフィは自慢げに、おれの額にキスをした。

「あとな!あとな!」
とニコニコと腕を引く、子供のような相手についていけば、普段に比べて明らかに手の込んだメニューがテーブルの上に並んでいて。

「今年は、ぜーんぶ、おれの手作りだ!」

そう話したルフィの手には、たくさんのおにぎりが積まれた大きな皿があって。
「ゾロは甘いの苦手だからな、今年はこれでローソクふーするぞ!」
机の真ん中に置かれたおにぎりタワーに、不規則にさされた色鮮やかなろうそく達。


火をつけるようにと強請りながらマッチを差し出す腕を引き寄せて、ぎゅうっと強く抱き締めた。

「これを、おれのために?」
あまりの愛おしさに声が震えそうになるのを堪えて。

「ふたりで初めての誕生日も、おにぎりだったからな!」
なんて、人の気も知らずウキウキと話すルフィに、まだ幼かった2人を思い出せば、唇が急に寂しくなって。


学生時代、ふたりで過ごす昼休み。
当日になって思い出したように自分の誕生日を告げたおれに、慌てたように差し出された食べかけのコンビニおにぎり。
「これ、すごいうまいからやる!」
なんて、自分の空腹を堪えてでも、おれを喜ばせようとするルフィが可愛くて、愛しくて。


「あの時も、お前はここに米粒をつけてた。」
そう囁いて、頬についたご飯粒を取るフリをして、柔らかな肌に口付けた。



ゆらゆらと揺れるろうそくの光に、耳に心地よいお誕生日ソング。

2人だけのディナーで、2人だけの思い出を語って。



嗚呼、誕生日が特別な日なんて、お前に出逢ってから気が付いたんだ。














2015.11.11
初めてのキスはうめぼし味。


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