New world



ほろ苦い*



この時間が
ずっとずっと続けばいいのに




「髪、のびたな…」
そっと温かな手が、おれの頭を撫でて
「そうかな?」
返した言葉に優しい笑顔が向けられて。


まだ来ない春を待ちわびて、寒い雨を窓越しに見つめる休日の午後。
憂鬱だと、誰かは言うだろう。
退屈だと、皆は呟くだろう。


でも、おれたちはそうは感じない。


しとしと降る雨の音に耳を傾けて、ふたりで傾けるマグカップ。
緑のマグにはブラックコーヒー、赤のマグにはミルクいっぱいのカフェラテ。
ふたりで鍋でお湯を沸かして、コーヒーの香りを胸に吸い込んで。

「そんな甘いもん、よく飲めるな…」
とシュガースティックを2本入れ終えたおれをみて、ゾロが呟いて
「そんな苦いもん、よく飲めるな…」
とゾロの真っ黒なコーヒーを見つめて、ゾロの真似をして返した。

クスクスふたりで笑って、顔を見合わせた。
お揃いのグラスに、同じ香りのコーヒー。
色違いのスウェットに、同じ素材のスリッパ。


ソファーにつけば、いつもの定位置に座って、少し冷めたコーヒーを啜った。

「飲んでみるか?」
と真っ黒なコーヒーが差し出されて。
「飲んでみるか?」
と、またあの笑顔が見たくて真似して返せば、



ピトリ、
と唇にキスされて



「やっぱり甘いな」
と笑われた。





こんな雨の寒い日は、ふたりでひとつの部屋で過ごす。
外の音をきいて、身体を寄せて。

テレビの雑音も、本の難解な文字も、おれたちには似合わない。




ただ、ふたりきりの時間の中で
ただただ、甘い時を過ごしたくて





「もっと、味わわせてやろうか?」
なんて、わざと甘い声を出して





ふたりでキスをして
そっとソファーに沈んだ。








君の体温が欲しくて
君の声が欲しくて

君の全てが

欲しくて


そっとそっと髪を撫でた



あぁ
まるでブラックコーヒーみたいだ










(ほろ苦いそれによく似て、とてもすきな香りがする)
2012/03/05




*

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