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恋のぼり

(2013年/ルフィ誕生日)




大きな口を覗けば
丸い瞳がまるで笑ったようで。






腕を引かれて歩を向けた甲板は、春だというのにまだ肌寒くて。夜風に肩を震わせれば、ふわりと柔らかな毛布越しに抱き締められた。

クスリと笑って振り返ったゾロの手に何もなくて、
「どうしたんだ?星見ながら、酒飲むんじゃないのか?」
ルフィがきょとんと首を傾げば、
「さぁな。」
なんて、甘い甘い声が耳を掠めて、さらに強く抱き締められた。

「明日の夕食は、何が食いたい?」
そう尋ねるゾロに、肉に決まってるだろ、なんてクスクス笑って。
自分の誕生日である翌日にふたりきりになれないからと、ゾロがわざわざ今夜に時間を作ったのだと考えたルフィは、そんな恋人が愛しくて、

泣きたいほどに恋しかった。


「こうやって、ふたりでいるのも、いいよな。」
大好きな未来の大剣豪に向き直って、


「だから、」
なんて、珍しくも甘い声を出して、



「今夜は、ふたりきり、で…」



温かな唇が触れ合って、熱い吐息が漏れた、



それと同時に、ぱんぱんっと大きな音が、キラキラと夜空から降ってきて。


見上げた夜空には、鮮やかな色花火。

「「 おめでとう!ルフィ! 」」
夜空に響く、大切な大切なクルー達の声。


ひらひらと春風に泳ぎ昇る、9匹の鯉のぼり。



キラキラの王冠にギターが描かれた鯉に、サングラスに海パンのイカした鯉。優雅にたなびく綺麗な花模様や、大きな十字が描かれたもの。何故だか、一匹だけお鼻の長いエレファント本マグロに、ミカンに風車が愛らしい鯉。くるんと丸まった眉毛にコック帽が添えられたそれの胴には、様々な筆跡でぐるぐると渦巻模様が描かれていて。
一際、凛と背筋を伸ばす、胸に傷を持った深い緑の鯉のぼりと並んで、頂点を元気に泳ぐのは、

目元に傷のある麦わら帽子の赤い鯉。




ふわりと見開かれた瞳に、白い月が映って。
次いで、綱を引き終わったクルーを見つめて、船長さんは嬉しそうにニッと笑った。


「これ、みんなで作ったんだぞ!」
と胸を張る可愛い船医に
「お前、すぐ“なにしてんだ?”なんて覗きに来るから大変だったんだぞ!」
なんて、笑顔のルフィにやれやれと苦笑する狙撃手。

「はいはい、じゃあ今日はさっさと寝るわよ。明日は朝から宴の用意があるんだから。」
と言いつつも、船長の反応に笑みを溢す航海士と
「朝日に泳ぐ鯉のぼりも、きっと素敵ね。」
そう微笑む考古学者に、メロリンと眉を下げるも
「明日の料理は期待しとけよ!」
なんて、煙草を吹かすコックさん。

「では私は、ディナーに素敵な音楽を!」
ジャンっとギターを弾く音楽家に
「明日はスーパー・ハッピーな日にしてやるからな!」
と、船長の髪をくしゃくしゃと撫でる船大工。


大好きなクルーのお祝いに、嬉しくて堪らなくて。
幸せで、仕方がなくて。

「ルフィ…。」
そっと抱き締めてくれる、優しい恋人の声が背中を押して。



「おれ、生まれてきて、よかった!!」



そう、溌剌とした愛しい声が、広い広い海にこだました。





「生まれてきてくれて、本当によかった。」
心から溢れた言葉を聞くのは、ぽつりと残されたふたりの影に、微笑むお月様。

「おれもこうやってみんなに、ゾロに会えてうれしいぞ!」
と呟いた、黒瞳に星屑が瞬いて、美しくて、


「愛してる。」

そう、低く掠れた声が囁いた。


「まだ、寝なくていいのか?」
なんて、若草色の髪を梳いて悪戯げに笑ったルフィが、

夜空のように深いゾロの瞳を覗き込めば、



「今夜はふたりきりで、だろ…?」



なんて。
静かに温かな掌が、ルフィの肩をそっと押して、




ふたつの影が重なった。






深い青に飲み込まれたアクアリウムバーで、
「明日は、ゆっくり寝かしてあげましょう。きっと、今夜は朝まで眠れないだろうし。」
そうワインを傾けるロビンに、
「主役だけは、ね。」
とクスリと呟くナミ。

「麗しいお姫様方、おかわりはいかがですか?」
と囁くサンジの後ろで、いびきをかく野郎共。







肌寒い春空に、唇を深くしたふたりを
9匹の大きな瞳が優しげに見つめて、


そして、静かに、




揺れた。









2013/05/05
/ふわふわと空を泳ぐ鮮やかな鯉のように、ふたりの恋も清く優雅にたなびきますように。高く泳ぐや恋のぼり。




*



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