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さかさのさかさ



「いやだ!」
そう胸を張って笑う瞳が愛しくて、
俺は小さく溜息をついた。




空は快晴、波は穏やか。恐いくらいに平穏な空気の中、トレーニングに励んでいれば、いつもの如く、嵐の現況が現れて、

「おれは、ゾロなんか、嫌いだからな!」
と、にっと満面の笑みを向けられた。

普段、甘えん坊な恋人が、決して言うはずのない言葉に、瞬時思考が止まるも、俺はムッと細い腰を引き寄せた。
「誰に言われた?」
と柔らかな耳元にキスすれば、
「めろめろに、なったか?」
なんて、あの丸い瞳に見上げられて。
嗚呼、いつだって俺はお前に首ったけだよ、と苦笑した。

「ギャップ萌え…だったかな?いつもと逆さのことしたら、ゾロがめろめろになるって、サンジが言ってたんだ!」
えっへんと胸を張る船長は、何やら勘違いをしているらしい。いつも、まっすぐに愛を表現してくるルフィが普段と逆の行動をするとなると俺にとっては相当な打撃だ。
紛らわしいことを吹き込んだコックを恨むのは後回しに、先にルフィの誤解を説くのが得策だろう、と考えた俺は、トレーニング器具を楽しげに眺めるルフィを手招いて、
「話がある。」
と膝を叩いた。それだけなのに、

「いやだ!」
なんて、愛らしい声が部屋に響いて、
「おれは、ゾロの膝になんか座らねぇぞ!」
と俺の目の前のカーペットに、あのいつものジーンズパンツが、ちょこんと腰掛けて。

どうやら、今のルフィの思考は「普段と逆の行動=愛情表現」になってしまっているようで。
困ったことになった、と頭を掻いて
「抱き締めんのも、いやか?」
と、いつもなら、自分から強請るハグを出しても
「ぎゅうも、いやだ!」
なんて、首を横に振って。

「じゃあ、一緒に昼寝は?」
と頬を撫でようと腕を伸ばせば、
「いやだ!」
ふわりとその手を交わされて。

「…キスは?」
と最終手段を尋ねてみれば、艶やかな唇を尖らして、
「しないぞ。」
なんて、きょとんと首を傾けられた。


この、悪魔の息子め。
小さくまた溜息をついて、愛しい恋人を見つめれば。本人はいたって幸せそうで。
まぁ、ルフィにすれば「いやだ」と言うことで、愛を伝えている気になっているのだから、当然なのだろうが。俺にとっては、我慢ばかりで辛いだけ。

こうなりゃ、仕方ない。
そう、首を鳴らして、愛らしい瞳を見つめれば、


少し強引に抱き締めて、唇を奪った。


パタパタと暴れる恋人の髪を撫でて、

普段と同じ様に
「愛してる。」
と真っ直ぐに呟けば、



見開いた真っ黒な瞳から、ぽとりと大きな真珠が落ちて、

「ゾロ、最低だ!」
と押し離された。


「おれ、ゾロのことすきだから、逆さ、したのに!ゾロは、むり、やり…おれ、の…」

ポロポロと涙を零す、可愛い可愛い船長さんにとって、俺の普段の行動は「愛情表現の逆さ」を意味していたようで。

「ゾロのアホー!もう知らん!」
ぷくっと膨らませたハムスターみたいな頬を、真っ赤に染めて、梯子を転がり降りたルフィを追いかけようと立ち上がれば、何故だか脳内に映った、先程の恋人の姿。

いつもハツラツとして、恥じらうことのないルフィの真っ赤な顔に。普段、自らが強引な癖に「むりやり」なんて涙を溜めた大きな瞳。
「すきだ、すきだ」と繰り返す唇が告げた、哀しげな俺の名前。


「ギャップ萌え、なぁ。」
ふと下階を見下ろせば、逃げもせず、梯子の脇で身体を丸め、肩を震わす恋人がいて。


「強ち、嫌いじゃないらしい。」
俺は苦笑して、そっと静かに梯子を降りた。






普段、見せない涙を掬って、
キスを嫌がる唇に口付けて、

いつもと違う君を見ることが
僕の特権だとしても
やっぱりこの甘ったるさは変わらない

そう、小さく笑って
柔らかな唇をちろりと舐めた。









2013/02/11
/君をドキドキさせたくて、僕がドキドキするなんて。さかさのさかさ、君がいつもと違って見えた。




*


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