ブラックコーヒーとチョコレート*
(新婚ZL)
フロアに広がる甘い香りに
目に映る色鮮やかなチョコレート
冷たい風に負けないように、口元まで引っ張ったマフラーに顎を埋めて。今日は旦那様には内緒でお買い物。
内緒といったって、理由なく出掛けるのは如何にも怪しいから、冬服のセールだと嘘吹いて。
やってきたのは、百貨店の上階。
バレンタインの特設フロア!
たくさんのお店がニコニコ笑ってルフィを迎えて。これなら、甘いものが苦手なダーリンにも、きっと喜んで貰えるだろう、と黒髪を揺らして、奥様は駆け出した。
サメの形のビターチョコに、甘く香るウィスキーボンボン。大人味の生チョコに、抹茶風味のトリュフ。
嗚呼、どれも目移りしちゃう!
「これも、ください!」
大きな袋を抱えて、次に指さしたのは、真っ赤なコーティングが施されたハートのシャンパンショコラ。
濃いブラウンのボックスに、落ち着いた深緑のリボンを結んでもらえば、なんとも素敵なバレンタインプレゼント!
たくさん買ったチョコレートは、全て大好きな人のもの。珍しく試食品にも手を出さず、ただただ、愛しい笑顔を思って。
柔らかな腕がパンパンに膨らんだ紙袋を、ぎゅっと抱き締めた。
「お、これは甘すぎなくていいな。」
と、ビターチョコレートを啄む唇が、
「これは酒が入ってんのか?」
と、ウィスキーボンボンに酔った息が、
「ハートか…」
そう、
「お前らしいな。」
髪を撫でながら伸びた、シャンパンショコラの香りの舌先が自分に触れれば、なんて考えて。
おれは、言い訳のはずの衣服を持たずに帰宅した。
「見せなくたっていいだろ?この袋の中には服が入ってるんだ…!」
何故だか顔を真っ赤にして、一向に本日の戦利品を見せまいとする奥さんに、苦笑する旦那様の、
嗚呼、なんて甘いこと。
それはそれは、
苦くて飲めないコーヒーに添えられた
甘過ぎるチョコレート菓子のよう。
2013/02/05
/苦い苦いブラックコーヒーとチョコレート。対照的で、でもひとり。
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