New world



愛しい奥さん*

(新婚さんZL)





おかえりなさい

俺だけに向けられた
その言葉が嬉しくて、

俺は心を震わせた。




パタパタ駆けてくる愛しいスリッパ。ひらりと踊るレースのエプロンに、愛らしい透き通った声。
「おかえりなさい!」
ばふっと胸に飛び込んできた、小さな身体を抱き締めて、ちゅっと軽く唇を合わせて、2人で笑った。



今日は久々のルフィの手料理。2週間の出張中、どれほど楽しみにしていたことだろう。
接待のために立ち寄った有名な旅館の海鮮も、可愛い人が懸命に捌いたへなへなの刺身には適わない。上司に誘われ訪れたステーキハウスのサーロインだって、愛しい人の黒焦げのハンバーグとは比べようもない。

そんな待ちに待った今夜のディナーは、柔らかく炊きすぎたライスに、少しとろみの少ないハヤシライス。プチトマトが鮮やかな、ちぎっただけのレタスのサラダ。
嗚呼、なんて愛らしいのだろう。なんて幸せなんだろう。
キッチンで揺れる、いつものあの背中を想って、笑みを漏らして
「美味そうだ。」
と呟けば
「当たり前だろっ」
と胸元のエプロンレースが揺れて

「いっぱい愛を込めたんだからなっ!」

えっへん、と子供みたいに張った胸に心が震えて。ありがとう、とその小さな身体をぎゅうっと抱いた。




初めは3日で済むはずだった遠征が、上司の手違いで2週間に伸び、ルフィには随分と悲しい思いをさせてしまった。
追加の旅費は会社側は勿論持つし、出張手当ても弾むから、と頼み込まれて仕方なく承諾したが、携帯越しに聞こえたルフィの泣き声に俺は何度後悔しただろう。

「長い間、待たせてごめんな。」
そう、囁いて柔らかな髪を撫でれば
「ちゃんと、待ってたぞ。」
と、お返しとばかりに、俺も頭を撫でられて。髪が、心が、くすぐったくて笑みが漏れる。

愛していると、何度伝えたって足りないほどに、愛して止まない、その瞳を見つめて。
「そうだな。」
とコツンと額を合わせた。


大切な人のクスクスと笑う可愛い声に、部屋が満たされて、温かな空気に溶かされていれば、ふわりと耳元で、

「それにな、」

まるで、秘密の話をするみたいに、ルフィのふっくらとした唇から息の混ざった、甘い声が紡がれて、


「ゾロがいない間に、花嫁修行したんだ。」


なんて、悪戯っぽく俺の鼻先にキスをした。




寂しい思いをさせないようにと、連絡を回しておいた仲間がよく動いてくれたらしく、ルフィは自慢げに微笑んだ。
「サンジにはグラタンの作り方だろ?ナミには上手なスーパーでの買い物の仕方!チョッパーには二日酔いに効くデザート、ウソップにはしわしわになんない洗濯物の干し方を教えてもらって。あとな、ブルックとロビンと一緒にゾロの服選んで、フランキーにロボの作り方習ったんだぞ!」

そう言いながら、指差した棚の上にはティッシュの箱で出来たへにゃりと傾いた何かがあって。あぁ、あれがロボか、と苦笑した。

「すごいんだぞっ。みんな、買い物に行ったらたまたま会ったり、丁度、家で退屈な時に遊びに来たりして!」

楽しかった思い出を俺の膝に座って話すルフィが愛しくて、ルフィの生活リズムをメールで尋ねてきた奴らのことは黙っておくことにする。




「でも、な」




弾んでいた声が、何故だか急に弱々しく萎んで。





「…寂しかった。」




ポロポロと零れる涙は、俺のシャツに染みて。

「やっぱり、ゾロがいないと駄目だ。お仕事だってわかってる。でも、もう…どこにも行かない、で。」
強く強く俺の胸に押し付けられた顔は、真っ赤。
堪えて堪えて堪えて。心配を掛けまいと、今日まで必死に笑っていたに違いない。

「ずっと、傍に、いて。ずっと、ずっと、ぎゅうって、してて。もう、」
「離れ離れは、やめにする。」


そう囁いて、柔らかな頬に手を添えて、そっと上げさせた綺麗な泣き顔に微笑んで

唇を合わせた。


「もう、ルフィを置いていったりしない。仕事だろうとなんだろうと、一緒に行こう。」
不安げに揺れた瞳に応えるように、抱きしめる腕に力を込めて。


「俺も、ルフィがいないと寂しくて仕事にならないから。」


耳元で響いたのは、哀しい嗚咽ではなくて。
甘い甘いクスリという笑い声。

「そうやって話したら、部長さん、許してくれる?」
ぴとりと温かな額が、俺の首筋に触れて。


「許してもらえるまで、頭を下げる。」

そう真剣に返した俺の声に、

俺の大好きなあの愛しい声が
幸せげに部屋に響いた。





すきですきで堪らない。

そんなの確かめる意味なんてないのに、
人生は時折、俺を試す。


そして、最後に愛らしい声で囁くのだ。




「ゾロは、本当におれがすきだなぁ…!」




なんて。
涙が溜まった瞳で笑いながら。




毎日毎日、飽きるほどに
愛していると伝えているだろう?


すきだよ、お前が。
お前だけが。




そうでなけりゃ、
これほど胸が震えたりしない。


そうでなけりゃ、
両手いっぱいの御礼を引っ提げて
「お世話になりました」なんて
仲間の元を回ったりするもんか…!




そうさ、
俺の世界はルフィの為に廻ってる。



愛しているよ





「あぁ、俺の愛しい奥さん。」










2013/01/21
/俺の愛しい奥さんの為にありがとう、なんて!嗚呼!なんて憎らしい!




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