歪な音符
もしも
おれに言葉がなかったら
どうする…?
いきなり問われたその言葉に、何故だか不安になって
「ルフィ…」
そう腕を伸ばして抱き締めた。
2年前の船長の兄の死を知って、心配しなかったクルーはいないだろう。誰もが皆、ルフィを想ってこの2年を過ごしてきたのだ。
その中で最年少の小さな船医は、まだ幼さの残るキャプテンの心理を心配していたようで。ルフィにそっと教えてくれたらしいのだ。
「すごく悲しいことがあると、急に耳に音が入らなくなったり、声が出なくなっちゃうことがあるんだ。」
そう、優しく自分を見つめる瞳に、ルフィは泣きたかったと言う。
「だからさ、ルフィは何ともなくて、よかった…!」
下手に笑った頬には涙が溢れて、青い鼻先を濡らした。
「そんなことがあったのか。」
漏れた苦笑は、きっと、愛しい人の今にも泣き出しそうな真っ赤になった頬のせい。
「なぁ、ゾロ…?」
再び尋ねられた、冒頭の質問。
瞳を閉じて、深く息を吸って。導き出した答えは、
「どうもしない。」
俺はそう返して、強く強く小さな身体を抱き締めた。
「もし、ルフィが悲しみに押しつぶされて声を失ったとしても、俺は歌いたくなるまでいつまでも抱き締めてやる。」
ふわりとこちらに向けられた漆黒の瞳に俺が映って。
「うた?」
さらりと柔らかな髪が揺れた。
「俺は“あいしてる”なんて聞かなくたって、愛されてるのを知ってるし、名前を呼ばれなくたってその瞳の光でお前の意図がわかる。」
そっと掻き上げた前髪から覗く、白い額にキスをして。
「それでも、大好きな人のへたくそな鼻歌がなけりゃ、俺は昼寝も出来やしないんだ。」
なんて、甘ったるい声で囁けば、
「へたくそじゃないぞっ」
とぺちりと額が叩かれて。
ふたりで向き合って
ふたりで笑って
でこぼこな旋律の
へたくそな鼻歌を
ふたりで奏でた。
もしも、
貴方の声が永遠に消えてしまったなら、
きっと、
僕は、
三日三晩、泣きはらして、
声を失うことでしょう。
2012/01/19
/歪な音符を並べて、あなたがすきよ、と唇を突き出した。
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