鳴かぬ蛍は身を焦がす
言葉にして吐き出すのすら、
惜しく感じて仕方がなくて…。
「なんでゾロは、すきっていっぱい言ってくれないんだ?」
そう不満げに唇を尖らせた恋人が可愛くて、笑みが漏れれば、からかうな、と桃色の頬が膨らんで。
「なぁ、ルフィ…」
そっと梳いた黒髪が指を滑ってはらはら零れれば、ぎゅっと小さな身体を抱き寄せた。
「"鳴かぬ蛍が身を焦がす"って知ってるか?」
白い耳元に唇を寄せて尋ねれば、
「蛍を焼いて食べるってことか?」
なんて、いつもと変わらぬ子供みたいな答えが返ってきて。
そう首を傾げる恋人が、苦しいほど愛しくて。この二人の時間が涙が落ちそうなほど、幸せで。
「蛍は口に出さなくとも、言葉にする以上にお前を愛してるってことだ。」
囁いた声が思った以上に甘くて、自分で苦笑すれば、ルフィの真っ黒な瞳がチラリと揺れて、
「それって、蛍がおれのこと、すっごくすきってことか?」
と不思議げに髪を揺らした。
「ほわほわだし、きらきらだし…おれも、蛍、すきだ。けど…」
少しずれた話を一生懸命に考える、その姿が愛らしくて
「けど…?」
と先を促してやれば、俺の背中に回された細い腕に、ぎゅうっと力が籠もって、
「おれ、ゾロが一番すきだから。」
そんな甘い呟きが、
「だから、蛍は一番に出来ない!」
俺の胸をゆっくり満たした。
嗚呼、この正直者な蝉はいつだって俺をふらふらさせる。すきだとか、一番だとか。名前ひとつを呼ぶことすら、俺は躊躇うのに。
すきですきで堪らなくて。だからこそ、言葉にするのが、惜しくて。おかしいかもしれないが、勿体ないと思うのだ。これほどまでに強い想いを、きっと俺は、この世の言葉では伝えきれないから。
「…ルフィ。」
そっと頬を撫でて、瞳を瞑れば、心から溢れた想いが唇から漏れて。
「俺もルフィを一番欲してる。」
ふわりと柔らかなキスをした。
/2013/01/07
/鳴く蝉より、鳴かぬ蛍は身を焦がす…なんて。蝉だって、心から溢れ出すほどの愛を堪えているのよ…!
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