今回はお面が無いだけマシか、と鴨居は溜め息を吐いた。手首も縛られてないし、ある程度の自由もある。ただ何より俺の不安を煽ったのは、隣の男の存在だった。

「そう滅入るなよ鴨居。日本で二度も銀行強盗に遭遇したのは、きっと俺達だけだぞ。新記録だ」
「嬉しくない」
「あそこに居る支店長は信用するなよ。前回みたいに、グルかも知れないからな」

銀行強盗の人質も、一度なら良い教訓になるかも知れないが、二回は流石に多過ぎる。未経験の誰かに譲ってやりたいなんて馬鹿な事を考えていた時、強盗の一人が振り返った。

「皆様どうか逃げようとなさらないで下さい。そんな人物が居れば、私達はその方を撃たなければならなくなります」

強盗は全員で三人だ。スーツにサングラスという軽装で、慣れた手つきで作業を続けている。呆れた事に、俺達と変わらない大学生くらいの若者まで居た。

「それでは今日は、音楽の話をしましょう」

演説口調の男は、本当に独壇場で演説を始めた。その場に居る全員が怪訝そうな顔をして、そちらに意識を傾けている。もしかして、それが狙いなのかも知れない。

「…おい、注意を逸らす気だろ」

それを口に出した馬鹿は言うまでもなく、陣内だった。得意げな顔で強盗犯を見上げ、喋り続けている。

「随分と慣れてるみたいだが、残念だったな。俺も人質になるのは経験済みなんだよ」
「いい加減にしろ陣内。何の自慢にもなってない」
「注意はカウンターに向けとけよ、鴨居。木を見て森を見ずって言うだろ」
「…あと、微妙な処で間違えるな」

俺達がそんな話をしている間に、デスクの上に立っていた強盗が歩み寄ってきた。流石に息を呑んだ俺に対して、陣内は何故か堂々と待ち構えている。

「どうかご静粛に願います、お客様」
「うるせーな、お前の客になった覚えはねえよ。それともギターでも売ってくれんのか」
「頼むから陣内、強盗にだけは迷惑を掛けないでくれ」

思わずそう口出しすると、スッと強盗の銃が俺に向いた。

「こちらはご友人ですか?」

しまった、と後退りながら無意識に頷く。すると強盗がいきなり、俺のこめかみに銃口を突き付けた。流石の陣内も驚いたのか、厭な静けさが落ちてくる。

「…おい、話が違うだろうが」

ただそれで黙るほど、陣内は常識を持ち合わせている筈もない。

「逃げなければ撃たないんじゃねえのかよ。騒がれて困るなら、最初にそう言えっつーの」「それは申し訳ありませんでした。次からは善処します」
「やっぱり常習犯かよ。お前らみたいな奴が居るからな、俺達の仕事が馬鹿にされるんだ」
「…ちょっと待て。黙っていれば何だ、仕事の不満まで私のせいにするつもりだな」

いつ黙っていたのかは気になったが、強盗は明らかに素に戻っていた。もし興奮状態になっているなら、無理に撃たれても不思議じゃない。こんな変人に挟まれて死ぬなんて、冗談でも嫌だった。
そう思っていた時、カウンターに居た二人の男が突っ立って声を掛けてきた。

「…おい。終わったぞ」

そのスレンダーの男は呆れた声をしていたが、若者は随分と楽し気に見える。

「お前は失敗だ。配分を変えて良いレベルだな」
「ちょっと待て、注意は逸らしたぞ」
「余計な事まで喋るな。良いから最後くらい、ちゃんと締めてくれ」そう言われて嗜められた強盗が、チラッと陣内を睨みつけた。するとざまあみろ、と言わんばかりに陣内が笑っている。
俺は降ろされた銃口に、長い溜め息を吐いていた。

「それでは我々は、次の舞台に移動します」

走り去った強盗達に、陣内が野次を飛ばしている。俺はそれを蹴りを入れて、一つだけ学んだ事を心に留めた。
陣内とはもう、二度と銀行には来ない。



END

―――
君と僕とZEROの高瀬類さんから、ギャングと陣鴨ちゃんの素敵な小説を頂きました!
鴨居ちゃん、正解です。二度と陣内と銀行に行っちゃだめです。苦労性鴨居ちゃん可愛い! 素敵なお話、ありがとうございました!

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