その目を見開いて。
夢と現実を見るんじゃなく。
“見て”。

* * *

何度世界が眩んで、何度彼女が死んで僕が生きようが、陽炎はそれを遠くから嘲笑って次の季節と彼女を奪い取る。それを僕らは何度繰り返しているのだろう。もしかしたらもう何十年か分の夏を過ごしているのかもしれない。幾ら鈍感な僕でも気がついていたさ。だから夏が嫌いなんだろう?

「僕も夏は嫌いだよ」
「だったら終わらせてよ」

にっこり。彼女は笑って言う。
こんなよくある話。彼女だけが死んで、僕が生き残る。この連鎖を断ち切るのは一つだけしかないだろう? 僕も彼女に笑ってみせた。

「夏の向こうに行こうか」
「ベタ過ぎ」

もしもこれで季節が正しく流れるのなら。僕はそれでいい。
願わくば、彼女の道に幸あらんことを。

手を伸ばして彼女の腕を引っ張る。
この間と同じ、公園を出た先の交差点。逃げ出した黒猫を追いかけた。
本当ならここで彼女は死ぬ予定。陽炎もそれを待っている。

「でもそうはさせないよ」

飛び出した僕の体は止まらない。もちろん走るトラックも止まれない。体が舞い、アスファルトに叩きつけられると即座に血の匂いがした。体中が痛いという感覚はなく、ただ自分が息絶えてゆく感覚だけが研ぎ澄まされていく。文句でも言いた気な陽炎にこちらが嘲笑いながら「ざまぁみろよ」と呟いた。

こんなよくある夢と現実の話。
そんな何かがここで終わった。

……だといいな。

* * *

目を覚まさないはずの僕が、次に目が覚めたのはベッドの上。真っ白い天井が目に痛かった。

「またダメだったよ」

黒猫を膝に乗せ、頭を撫でながら彼女は言う。携帯のディスプレイを見てみれば、八月十四日の日付。どうやらこの世界はまだまだ繰り返すらしい。

「甘いなぁ」

窓の外で陽炎がそう呟いた。



〜カゲロウデイズ〜
(最善策は、その目を見開いて)

彼と彼女と僕は知らない。
八月十四日を終わらせる方法を。
彼と彼女と僕は知らない。
お互いの顔を。

ゆらゆら揺れる陽炎から聞こえる声。
「最善策は、その目を見開いて」

それは一体――。

* * *

誰も知らないことを自分は知っている。
でもそれを実行する気はない。あの人達が気づかないのならずっと自分は八月十四日を繰り返すだけ。唯一のヒントとして与えたのは「最善策は、その目を見開いて」だ。これが示す意味を考えて行動に移せば、八月十四日は終わる。

その目を見開いて。
彼と彼女と彼が出会えば。
予想通りの八月十四日に予報外れの雨が降るだろう。

その時に。その時に八月十四日は終わりを告げる。





―――
カゲロウデイズ三部作は制作者様・楽曲等など、全てのものと関係ありません。個人的に作ったものです。

じん(自然の敵P)様
「カゲロウデイズ」
「コノハの世界事情」
「チルドレンコード」


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