開け放った窓から聞こえる蝉の鳴き声が煩くて、それで目を覚ました。なんだか気持ち悪い。何か飲もうと携帯のライトを頼りに冷蔵庫まで辿り行く。冷たい麦茶を飲んで携帯のディスプレイで時間を確認する。八月十四日の午前十二時過ぎ。嫌な時間に起きてしまったなと思い、ふと考えてみる。昨日一日、なにしてたっけ。

* * *

彼女からの電話に出て三十分後。僕らはブランコに腰掛け、何をすることもなくまた駄弁っていた。そのことに対して僕が文句を言うと彼女は「別にいいじゃない。君、こうやって駄弁るのも青春なんだよ」と返してきた。一体君は誰なんだよと言いかけたところで止めた。どこかで聞いたことがあるような気もしなくもない。所謂デジャヴュというやつだろうか。

「前にも同じこと言った?」
「さぁ?」

よく分からない。話もなんだか続かなくなったので、僕は彼女に昨日見た夢の話をした。それは彼女がトラックに引きずられて死ぬ夢だけれども。
「何? 君は私に死んでほしい願望があるの?」苦笑混じりに彼女が話すから「あるわけないだろう」と答えた。よく願望が夢に現れるというけどそれは違うと思いたい。というか違う。

「夏はね、やっぱり嫌いだよ」
「暑いから?」
「それもあるけど、もっと他の理由もあるでしょ」

ほら、また同じ言葉。君は僕に何を教えたいの? 僕には分からないよ。

「昨日、何してたか覚えてる?」
「ううん」

言葉と一緒に首を横に振る。すると「そうだよね、うん」とまた彼女が意味の分からないことを言うから、これは自然ともやもやした気分になる。

「ねえどうしたの。なんかおかしいよ」
「そうかなー。でも君の言う通りかもしれないね」
「なんかあったの?」

そうやって僕が聞くと、彼女は切なげに笑った。僕は知っている気がする。彼女のこの笑い方を。
オレンジの夕焼けに、十七時を知らせる音楽。それを聞いてブランコから立ち上がる彼女は僕に手を差し出して「もう今日は帰ろうか」と言う。日が暮れたら早く帰りなさいとよく言われたなぁとか思いながら、彼女の手を取った。
特に話すこともなく、僕が彼女の横に立つこともなく、引っ張られるように公園を出る。今日も暑かったな。蝉の声が耳につくな。
カランカランと遠くから金属が擦れ合う音が聞こえた。なんだろうね、と彼女の後について道を抜けると、ついで耳を塞ぎたくなるような大きな音と共に鉄骨が頭上に降り注ぐ。
彼女の、頭上に。
場が一瞬だけ静かになり、そうして響き合う悲鳴の不協和音。どこか遠い夢のような出来事のようで、輪の中心の一つとなっていた僕は取り残されたようにその場に立ち尽くした。
嘘だろう? なんで?
そんなことなど考えることもできなかった。頭が真っ白になるという状況を実感しているみたいだ。

どこからか聞こえた風鈴の音と重なって、陽炎が嘲笑う。「目を見開け。夢じゃないぞ」そう言っている気がした。

目を見開け?
見ているつもりだけど。

「また繰り返すんだね。同じ夏を」

鉄骨の下から聞こえた彼女の声。ちらちら霞む視界の中、脳裏に浮かんだ笑い顔。まるで陽炎と同じように笑っていた気がするんだ。


――気付いたのはいつだってそう。彼女が笑った後なんだ。







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