――愛してるよ、ばいばい。



好きだ、と自覚したときはもう遅かった。その時に僕はもうここから離れていて、君はまだこの場所にいた。伝えることのできない愛をどのような言葉で飾って君に伝えようか。

「言葉にするのは難しいね。君を抱きしめられたら一番いいのに」

ぎゅ、ぎゅ、と自分の手を開いては握り、握っては開く。手の平が捕まえたのは空気だけで、君の片端さえ掴めない。
照り返しのアスファルトから生まれる熱は気持ちが悪いくらいもわもわしていて、それと同じくらいに僕の意識ももわもわする。熱中症かなにかの症状かとおもったけれど「まさかぁ」と思って熱中症のせいにはしなかった。
夕焼けに染まっていく空と、耳につく煩い蝉の声が夏を主張する。いくら地球温暖化で節電が叫ばれていても、この暑さはクーラーをつけないと危ない。外にいる僕には関係のないことだけれども。

「帰るにも帰れない。でもずっとここにいるわけにもいかない。さて、どうしたものか」

僕はどこに行けばいい? 通り掛かった猫に聞いてみたけれど、自分だけが知っている涼しい場所へと急ぐように、ととと、と僕を無視して駆けていく。少し寂しかったけれど、当然のことだから仕方ないと思い込んだ。

「もしも僕が好きだと伝えたら、君はどうする? 喜んでくれるのか、悲しむのか。声を挙げて泣くのか、隠れて泣くのか、それとも泣かないのか」

それとも、幾ら飾っても好意は伝わらないのだろうか。
どれでもよかった。でもどれも少しずつ嫌だった。
明日から。ふとそんなことを考えてみる。明日からはどうなるんだろう、と。琥珀色をしたこの街がサラサラと灰になって消えていくまで、君はここでひとり。一人ぼっちじゃないけれど、ひとり。ごめんね、僕が一緒じゃなくて。今までは君と歩いたのにね。でも寂しくなんかないよね? まだ、灰になりそうなこの街にも君の仲間はいるから。絶望するのは、まだ早い。それに明日になれば今日の君も僕も死んでしまうんだよ。二度と同じ君や僕が戻ってくるわけじゃない。明日は別の君が生きて、明後日になる前にその君が死んで、また新しい君が生まれる。意味が分からない?

「人間、成長していくんだよ」

っていう意味。
僕はもう、永遠に生まれてこないけど。
死に際に君が好きだって思えた僕はなんて幸せなのだろう。愛してるよ。伝えたかったけれど、トラックに自転車ごと跳ね飛ばされた僕のカラダでは無理だったみたい。だからこうやって、君にどう愛してるって伝えようか考えていたけれど、もういいや。言葉にしたら嘘っぽくて、うやむやで、丁度いいものが見つからない。だから、

「ばいばい」

愛の言葉に代えて言うよ。
さよならを伝えるのが、僕なりの愛だ。



―――
米津玄師:「vivi」
個人で書いたものであり、この世界のすべてと関係ありません。

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