手を合わせれば


 メイルドラモン――。ロップモンからは想像できないくらい、大きくてたくましい。もしかしたら、今まで出会ってきたデジモンたちの中でも、トップクラスの大きさかもしれない。銀色のボディに身を包み、金色の羽と鎧を纏っている。


「うわあ、かっけえ!」

「さすが奇跡……」

 大輔くんが目をキラキラとさせている横で、私は小さく呟いた。


「……賢。俺は、賢のこと大切な仲間だと思ってる。でも今の賢は変だ。だから、戦うよ。賢が気づくまで、何度でも!」

 飛鳥くんはD-3を握りしめ、真っ直ぐカイザーを見据えた。――しかしカイザーは気づかない。飛鳥くんがどれだけ彼を思っているか。
 カイザーは悔しそうに飛鳥くんを睨みつけると、こう言い放った。


「アーマー進化をしたからといって、僕に勝てると思ったのか? 勘違いもはなただしい。お前なんてもう、仲間でも何でもない!」

 カイザーはマントを翻すと、命令を降した。


「セーバードラモン、一斉攻撃だ!」

 セーバードラモンが、こちら目掛けて一直線に飛んで来る。すると、メイルドラモンが私たちの前にひらりと飛んできた。


「メイルドラモン、ムースモンたちを守るんだ!」

「当然よ!」

 メイルドラモンは飛鳥くんの言葉に頷くと、空高く飛び、セーバードラモンへ向かった。


「アイアンプレス!」

「ぐぎゃあああ!」

 メイルドラモンはその巨体で、セーバードラモンたちにのしかかった。あまりの重みに、地面へ墜落していく。
 その反動で、セーバードラモンたちのイービルリング外れる。その途端、彼らはどこかへ飛んでいってしまった。


「どうだ、参ったかカイザー!」

「この程度で僕を倒せるとでも?」

 大輔くんが得意げに叫ぶと、カイザーはにやりと笑った。相変わらずかっこつけてんなあ。


「セーバードラモン、来い!」

 カイザーが呼びかけると、増員のセーバードラモンがこちらへ飛びかかってきた。その数は先程の2倍――10体もいる。


「うわっ、10体も!?」

「さすがの私も、この数はきついわよ……」

 私が思わずそう叫ぶと、メイルドラモン困った顔で後ろを振り返った。


「くっそぉ、どうしたら……」

「シューティングスター!」

「マッハインパルス!」

 大輔くんが呟いたその瞬間、見慣れた必殺技がセーバードラモンたちを襲う。私たちが上を見上げると、そこにいたのは――。


「みんな、大丈夫!?」

「タケルくん、京ちゃん!」

 2人はパートナーから飛び降り、こちらに駆け寄った。


「待たせたわね、湊海ちゃん!」

「ううん、京ちゃんたちなら絶対来てくれると思ってたから!」

 私は京ちゃんにぎゅっと抱きつくと、京ちゃんは安心したように息をついた。普段はハチャメチャなところもあるけど、やっぱり頼りになる。――お疲れ様、みんなのお姉さん。


「ロゼッタストーン!」

「ゴールドラッシュ!」

 ネフェルティモンとディグモンの攻撃で、セーバードラモンたちが引いていく。


「ヒカリちゃん、伊織も!」

「遅れてごめんなさい!」

「今からでも、参戦します!」

 ヒカリちゃんと伊織くんも追いついたようで、私たちの方へ駆け寄った。これで全員、揃ったね……!


「ムースモン、メイルドラモン、俺たちも!」

「もちろんです!」

「行くわよ!」

 フレイドラモンたちも大分回復したようで、ゆっくりと立ち上がる。そしてセーバードラモンに向き合った。


「アイアンプレス!」

「ファイアロケット!」

「ホーンブレード!」

 メイルドラモンがセーバードラモンにのしかかって怯んだところに、フレイドラモンとムースモンが必殺技を放つ。その攻撃で、イービルリングが外れる。先程と同じように、メイルドラモンたちは散っていった。


「……ふん。今日のところはこれで勘弁してやる。覚えてろ!」

 全てのセーバードラモンがいなくなり、カイザーを守る者は誰もいなくなる。今日は芋虫くんもいないようで、カイザーはずこずこと帰っていった。ダサい捨て台詞を残して。
 さっすがデジモンカイザー様だぜ。


「飛鳥さん……さっきはひどいこと言ってごめんなさい」

「これから、私たちと一緒に戦ってくれますか?」

 カイザーが去っていった後、タケルくんとヒカリちゃんは飛鳥くんに歩み寄った。不安そうに眉を潜め、飛鳥くんの様子を伺う。


「もちろん! 謝らなくたっていいんだよ。悪いのは俺だから」

 そんな2人を安心させるよう、飛鳥くんはにこりと笑って、2人の頭を撫でた。


「力を貸してくれると、すっごく嬉しい。……伊織も、手伝ってくれるか?」

「当たり前です。飛鳥さんは僕たちの仲間なんですから」

 飛鳥くんは、傍にいた伊織くんにそう問いかけた。伊織くんはしっかりと頷き、飛鳥くんの方を見る。そしてタケルくんたちと同じように眉を潜め、口を開いた。


「……先程は申し訳ありませんでした。僕……」

「だーかーらー、謝らなくていいの!」

 飛鳥くんは伊織くんの頭の上に、ぽんと手を乗せた。


「俺は、みんなと仲間になるのが夢だったんだ。これで充分さ」

 飛鳥くんは自分のD-3を大事そうに抱きしめた。
デジヴァイスがD-3になったとき、デジメンタルを持ち上げられたとき、アーマー進化できるようになったとき……どれも私は、忘れることができない。それはきっと、飛鳥くんも同じ。みんなと一緒に戦える。それがどれだけ嬉しいことか――。カイザー側にいた飛鳥くんは、一層その思いが深いだろう。
 私は飛鳥くんたちの方を見て、頬を緩めた。これから一緒に頑張ろうね。



「しょうがないわねえ、こうなったら歓迎会よ! みんな家に来なさーい!」

「マジ? 行く行くー!」

「おはぎ、持っていきます」

「私も何か持っていくよ!」

 京ちゃんがそう言うと、真っ先に大輔くんが食い付いた。伊織くんはいつも通り、ひょうひょうとした様子で頷く。
いつも用意してもらっては申し訳ないので、今回は私も持っていくことにした。お菓子とかジュースとか、家にあるもの持っていこーっと。


「……みんな」

「泣くのは早いですよ、飛鳥さん」

「飛鳥さんったら、泣き虫なの?」

 目が潤んでいる飛鳥くんの肩を、タケルくんとヒカリちゃんが軽く叩く。今回の飛鳥くんは、泣いてばかりだ。


「ご、ごめんごめん」

「泣くならカイザーをぶっ倒してから!」

 飛鳥くんが目を擦ると、大輔くんは飛鳥くんの腕に抱きついた。


「サングラスもぎ取っちゃお!」

「ぶっ、わ、笑わせるなよ……」

 私がウィンクをすると、飛鳥くんは吹き出した。あのサングラス、ちょっとかけてみたいから、カイザーを倒したら記念に貰おう。


「……みんな。これから、よろしくお願いします」

『こちらこそ!』

 飛鳥くんは深々と、頭を下げた。私たちはそれに笑顔で応える。 ――飛鳥くんと、仲間と一緒になら、絶対に大丈夫。カイザーを倒すのは、難しいかもしれない。でも、みんなで力を合わせれば、きっと……!

 決意新たに、私たちは立ち向かう。









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