地図と照らし合わせ、D-3の反応を頼りに、先へと進んで行く。さきほどと比べると、D-3の反応が大分強くなってきた。
「これは近いぞ……!」
D-3を握り締めた大輔くんが、小走りで前へ進む。私たちは慌てて後を追いかけた。
「地図によると、この辺りにあるみたいだけど……!」
私は飛鳥くんが持っている地図を覗き込んだ。周りは草原で、見晴らしが良い。デジメンタルがあれば、すぐ気づくはずだ。
「……おや、あれは」
「ラブラモン、どうしたの」
「湊海様方、あちらをご覧ください」
ラブラモンの呟きに、ロップモンが反応する。ラブラモンの指さした先をよく見ると、何やら銀色の物体が草に隠れていた。
「もしかすると、デジメンタル!?」
「行ってみようぜ!」
大輔くんの号令で、私たちは駆け出した。近づいて見てみると、そこには見慣れない模様が刻まれた銀色の卵があった。金色の羽のようなものも生えている。
「これは……奇跡の紋章だ」
飛鳥くんが小さく呟いた。
「じゃあこれは、飛鳥くんの……!」
「飛鳥、早く持ち上げてみてよ!」
ロップモンがそう促すと、飛鳥くんは頷く。デジメンタルに手をかけようとした――その瞬間だった。
「させるわけがないだろう!」
「この声は……!」
上を見上げると、そこには黒い鳥に乗ったカイザーがいた。登場の仕方はかっこいいが、その格好で全てが台無しだ。
「カイザー! あなた、湊海ちゃんだけじゃなく、飛鳥の邪魔もする気!?」
「裏切り者をどう扱おうと、僕の勝手さ。ゆけ、セーバードラモン!」
ロップモンがそう叫ぶと、カイザーは鼻で笑った。カイザーの号令と同時に、セーバードラモンが5体やって来た。そのまま私たち一直線で飛んで来る。
私と大輔くんは、D-3を掲げた。
『デジメンタルアップ!』
「ブイモン、アーマー進化! 燃え上がる勇気、フレイドラモン!」
「ラブラモン、アーマー進化! 誇り高き慈悲、ムースモン!」
フレイドラモンとムースモンは、セーバードラモンに立ち向かった。
「ナックルファイア!」
「ホーンブレード!」
それぞれ必殺技を放ち、何とか撃退しようとするが、あまりにも数が多い。ムースモンたちだけじゃ、いつまで持つか――。
「飛鳥くん、早くデジメンタルを……!」
「あ、ああ……」
「ふん、無駄な足掻きを……」
私が呼びかけると、飛鳥くんは再びデジメンタルに手をかけた。そんな私たちの様子を見て、カイザーはにやりと笑う。
「そんなの、やってみないとわかんないだろ!」
「そうだよ!」
「やらなくたって結果は決まってるさ」
大輔くんと私が反論しても、カイザーは相変わらず余裕の表情だ。飛鳥くんは眉を潜めたものの、デジメンタルに手をかける。そのまま持ちあげようとした――が、飛鳥くんがどれだけ力を入れても、デジメンタルは持ち上がらなかった。私と大輔くんは、思わず顔を見合わせる。これは、飛鳥くんのデジメンタルのはず……。持ち上がらないなんて、そんなこと――。
「……持ち、あがらない」
「何で……!?」
飛鳥くんは静かに呟いた。ロップモンが慌てた様子で、デジメンタルの方へ駆け寄る。
「決まってるだろう。それはお前のデジメンタルじゃないからだ」
「なに!?」
カイザーの得意げなその発言に、私たちは奴の方を向いた。
「そもそも、紋章がこんな状態でデジメンタルを手に入れられるとでも思ったのか? バカバカしい」
カイザーは紋章を取り出すと、ひらひらと私たちの目の前で振った。
「でも、紋章は飛鳥くんのせいで黒くなったわけじゃない!」
「ふん。大人しく僕の言うことを聞いとけばいいものを……」
私はカイザーを睨みながらそう叫んだ。そもそも人の紋章を取ったのは誰なんですかね!?
カイザーはそんな私たちの態度が気に入らないようで、鼻を鳴らした。行動がワンパターンだ。
「だーれがお前の言うことなんて聞くか!」
すると大輔くんが、カイザーに向かってそう叫んだ。
「飛鳥さんはな、俺たちと一緒にお前を倒すって決めたんだ。お前なんかに負けるもんか!」
「飛鳥くんは、私たちの大切な仲間。いくら貴方が飛鳥くんにとって大事でも、傷つけるのは許さないよ!」
私たちはびしっとカイザーに指をさした。そんな私たちの様子にカイザーは顔を歪ませると、舌打ちをした。
「ぬかせ! セーバードラモン!」
セーバードラモンは私たちを襲いかかろうとする。ムースモンたちは咄嗟に私たちの前に立ち、応戦した。
「ホーンブレード!」
「ナックルファイヤー!」
しかし、セーバードラモンは、ムースモンたちの攻撃を簡単に避けてしまう。ただでさえ数で不利なのに、空まで飛ばれるとどうしようもない。いつもならぺガスモンたちが援護してくれるが、今日はそういうわけには――。
そう考えている間に、状況はどんどん劣勢になる。ついには反撃を喰らい、ムースモンたちは倒れてしまった。
「ムースモン!」
「フレイドラモン!」
私たちはそれぞれパートナーの名を呼んだ。……くそっ、このままじゃみんな共倒れになってしまう――。すると突然、大輔くんが飛鳥くんの方を振り返った。
「飛鳥さん、もう1回だ!」
「えっ、でもさっき持ち上がらなかったんだよ? これは俺のものじゃ……」
「いーや、俺には分かるね! これは絶対飛鳥さんのだ!」
飛鳥くんは困惑気味だったが、大輔くんはそんなのお構い無しに飛鳥くんの方へ寄った。
「飛鳥さん、カイザーをぶっ倒したいんだろ? それなら、俺たちの力だけじゃ足りないよ。飛鳥さんが必要なんだ!」
「大輔くん……」
飛鳥くんの手をぎゅっと握り、大輔くんは力説した。そんな大輔くんを、飛鳥くんはじっと見つめる。
「……私も、慈悲のデジメンタルを持ち上げる時、怖かったんだ」
私も続けて、2人の上に手を重ねた。
「でも、ラブラモンとロップモンに励まされて、持ち上げることができた。……私たちが側にいるよ、飛鳥くん!」
「湊海……」
タケルくんとヒカリちゃん、それに私は、デジメンタルが本当に自分のものか、分からなかった。もしかしたら太一さんたちのように、自分の紋章を引き継がなきゃいけなかったから。
でも、私はまだまだ、大輔くんたちと一緒に戦いたかった。ちょっとわがままだったかもしれない。けれど、その私の想いにデジメンタルは応えてくれた。だから飛鳥くんも、きっと――。
「ねえ飛鳥。貴方の紋章は?」
「……奇跡、だよ」
ロップモンはゆっくりと飛鳥くんに近づき、問いかけた。いつかの私と同じように、飛鳥くんは少し間を開けてそう答える。
「私にとって、飛鳥は奇跡なんだ。パートナーがいること、ロップモンの姿で冒険できること、仲間がいること……。ぜんぶぜーんぶ、飛鳥がいないと、出来なかったこと。だから飛鳥、ありがとう……!」
「ロップモン……」
ロップモンはそう言い切ると、飛鳥くんに飛びついた。飛鳥くんは恐る恐る、ロップモンを抱き締める。
「飛鳥ひとりだって、十分奇跡を起こせる。なんたって、奇跡の紋章の持ち主だからね。でも湊海ちゃんや、大輔たちがいれば、飛鳥はもーっと強くなれる。大切な人たちを守ることが、できるんだ!」
「……うん!」
そのロップモンの言葉に、飛鳥くんはしっかりと頷いた。
「ロップモンや、仲間がいるなら、俺は……!」
その瞬間、飛鳥くんのデジヴァイスが激しい光を放つ。それに反応するように、カイザーが持っている紋章も眩い光を放ち始めた。
「ぐ、ぐわあああああ!」
カイザーは眩しさのあまり、紋章を手放す。それを大輔くんが素早くキャッチして、飛鳥くんに投げ渡した。
「飛鳥さん!」
「ありがとう、大輔くん!」
飛鳥くんはしっかり紋章を受け取り、首にかけた。その紋章は以前とは打って変わって、金色に輝いている。
「飛鳥!」
「……ああ、待たせたなロップモン」
飛鳥くんが握っているデジヴァイスは、白地にパステルブルーのD-3に姿を変えていた。
「……みんなのために、自分のために、俺は戦う!」
飛鳥くんはぐっと力を入れ、デジメンタルを持ち上げた。
「デジメンタルアップ!」
「ロップモン、アーマー進化! 奇跡の盾、メイルドラモン!」