一方その頃、京たちはパソコン室で話し合いをしていた。
「ねえ、飛鳥くんは悪い子じゃないのよ。むしろその逆。だから……」
「そんなの、僕たちも分かってますよ」
京の言葉を遮り、タケルはD-3を握った。
「……だからこそ、許せないんです。元々良い人なら何故、って」
「私も、飛鳥さんには親切にしてもらったもの。信じられるなら、信じたいわ。でも……」
タケルとヒカリは神妙な顔でそう呟く。ヒカリが下を向くと、おもむろにテイルモンが口を開いた。
「……昔、私は敵側にいたんだ」
「テイルモン……?」
ヒカリは思わず、テイルモンの名を呼ぶ。テイルモンはヒカリの方を向き、話を続けた。
「ヒカリに出会うまで、私はヴァンデモンの配下だった。パタモンたちとも戦ったし、他のデジモンを傷つけることもあった。覚えているだろ、タケル」
「……うん。そうだったね」
テイルモンに促されたタケルは、こくりと頷いた。3年前の冒険の時、テイルモンはヴァンデモンの配下として、現実世界へやって来た。記憶を取り戻し、ヒカリのパートナーとして戦うようになるまでは、選ばれし子どもたちと対峙していたのだ。しかしヒカリはまだ、選ばれし子どもとして戦う前だったので、それを知らない。思いがけない話だったようで、ヒカリは言葉を失っていた。
「……ヒカリ。これで私のこと、嫌いになった?」
「そんな訳ないじゃない!」
テイルモンの言葉に、ヒカリは激しく首を横に振った。そのままテイルモンを強く抱き締める。
「テイルモンは何か事情があって、敵側にいたんでしょ? なら……」
「それなら、飛鳥さんも一緒……ということ、ですよね」
その伊織の発言に、全員の視線が伊織に集中する。
「伊織くん……」
ヒカリは不安げに、伊織の名前を呼んだ。
「……飛鳥さんは、カイザーを助けようと思って、側にいたんでしょう? デジモンを傷つけたくて、傷つけたわけじゃない」
「そう。私の場合は、記憶が無くなっていた。飛鳥はカイザーと仲間だったということが原因で、あちら側になっていたんだ」
伊織は、ゆっくりと、自身で意味を確かめるように言葉を紡いでいく。それに同調して、テイルモンも話を続けた。
「うーん、そうね……」
今まで黙って話を聞いていた京は、そう唸ったと思うと、手をぽんと打った。
「じゃあ例えば、私がデジモンカイザーになったとします」
「み、京さん!?」
突拍子もない京の例え話に、思わずタケルが大声を出す。しかし京はお構い無しに話を続け、タケルたちの前に人差し指を立てた。
「そんなとき、湊海ちゃんはどうするでしょーか」
その京の質問に、タケルたちは目をぱちくりとさせたが、ふっと笑い、答えを出した。
「……湊海お姉ちゃん優しいけど、強いからねえ」
「京さんにビンタの一つや二つくらいかましそう」
ヒカリとタケルはその場面が頭に浮かんだようで、苦笑いでそう言った。京もそんな2人見て、にこりと笑う。
「ふふ、そうね。じゃあ私たちもそうしたらいいじゃない」
京はD-3をタケルたちの前に掲げた。
「カイザーを、ぶっ飛ばすんでしょ? 飛鳥くんもそう言ってたわ」
「そ、それは飛鳥さんというより大輔さんが……」
京の得意げな様子に、伊織が半笑いでツッコミを入れる。
「あ、そうだっけ? でも飛鳥くんは、はっきりとカイザーを一緒に倒して欲しいと言っていたわ」
「……うん。仲間と戦うなんて、僕にはできないかもしれない」
「私も、できないわ。テイルモンの話を聞いて、余計にそう思ったもの」
京の発言に、タケルとヒカリは表情を暗くした。仲間と戦うというのは、相当な覚悟がないと出来ることではない。タケルとヒカリは前の冒険で、それを嫌というほど実感している。太一とヤマトが対立したとき、幼い2人は何もすることができなかった。もちろん、そのひとつ上の湊海も。1番年上の丈だって。
それくらい、仲間同士の対立というのは、難しい問題なのだ。
ましてや、仲間が闇に呑まれてしまったとなると、もはやどうしていいのか分からない。でも飛鳥は、カイザーと戦うと言った。それにはどれ程の勇気が必要か――。タケルは拳を強く握った。……闇と向き合うのは、とても辛いことだ。
「……いおりぃ」
「どうしたの、ウパモン」
ウパモンが寂しげな声を出して、伊織に話しかけた。伊織はしゃがみ込み、ウパモンに視線を合わす。
「デジモンはな、本当に悪い奴のそばにいったりなんてしないだぎゃあ」
「飛鳥さんがカイザー側にいた、というのはびっくりしましたが、飛鳥さんはとても良い人ですよ。それは私たちにも分かります」
「うん、それで俺も仲良くしようとしたんだぎゃあ。だから、伊織も……」
「ウパモン……」
ウパモンとポロモンは一生懸命、伊織に話をした。そんな2人の様子に伊織は心打たれたようで、目を潤ます。目元をゴシゴシ拭うと、すっと立ち上がり、京たちの方を向いた。
「……僕も、本当は飛鳥さんと仲の良いままでいたいんです。今からでも、助けに行きます!」
「私も行くわ!」
伊織に続いて、京もすくりと立ち上がる。
「……僕も、カイザーに一発食らわせないと気が済まない、かな。飛鳥さんの分まで」
タケルもD-3を握りしめ、伊織と京の前まで歩み寄った。自然と京たちの視線は、ヒカリに向かう。するとヒカリは不安そうに、京に問いかけた。
「……京さん。飛鳥さん、一緒に戦ってくれると思う?」
「当たり前じゃない! きっと喜ぶわよぉ」
その京の発言に、ヒカリは頬を緩める。京は、ヒカリに手を差し出した。ヒカリはそっと京の手を取り、立ち上がる。これで全員揃った。
「さあ、行きましょう!」
『はい!』
――今、心をひとつに。