握手


 辺りはすっかり夕暮れ時だ。私たちは、帰路についていた。


「負けたのに、あんまり悔しそうじゃないね」

「大輔くん、だって! 俺、あの天才に名前覚えられたんだぜ! 将来自慢できるかも……」

 ヒカリちゃんが大輔くんに話しかけると、大輔くんは頬を緩ませながらそう答えた。一乗寺くんに名前を覚えられるとは、さすが大輔くんである。やるなあ。


「よかったね、大輔くん!」

「うーん……賢くんのサイン、貰い損ねた……」

「京さん……」

「ポロモンの顔、変形しちゃうぞー?」

 京ちゃんはポロモンの頬を引っ張り、悔しがっていた。伊織くんと飛鳥くんが苦笑いで声をかける。


「ちょっとくらい、いいわよ!」

「よくないですううう!」

 さすがのポロモンも、ツッコミを入れていた。お疲れ様。


「でも、最後のスライディングタックルはすごかったよ」

「うん!」

「おれも感動したぜ!」

 タケルくんの言葉に、ヒカリちゃんが頷く。続けて大輔くんの頭上にいるチビモンも、大輔くんのことを褒めた。


「本当か? 俺、ひょっとしたら将来日本代表に選ばれたりして……」

「そういうことは、せめてまともなゲームが出来るようになってから言え。あのプレー以外は、一方的だったじゃないか」

 大輔くんがにやけていると、太一さんがぴしゃりと言い放った。確かに、日本代表となると、一乗寺くんと同等か、それ以上の実力をつけないと難しいのかもね。


「太一さん、厳しいー」

 大輔くんの項垂れた姿に、私たちは笑みをこぼした。次はもっといい試合ができるといいね、大輔くん。









 そして、次の日。私たちはいつも通りパソコン室に集合していた。


「大輔。右手を出しなさい」

 すると京ちゃんが、真剣な表情で大輔くんにそう言った。


「えっ? こ、こう?」

 大輔くんは戸惑いながらも、素直に右手を差し出した。


「この手を握れば、一乗寺賢くんと間接握手出来るんだわ……!」

 京ちゃんはそう呟くと、大輔くんの手を握ろうとしたが、あと少しのところで離してしまった。


「ああっ、ダメ! できない……! 大輔と握手なんて、私の美意識が許さないわああ!」

 そんな京ちゃんの叫びに大輔くんと私は顔を見合わせた。


「京さん、この前大輔さんの手、握ってましたよね……?」

「何やってんだか」

 ラブラモンは苦笑いで京ちゃんにそう告げる。さすがのタケルくんも、ツッコミを入れた。


「京ちゃんひどいよー。大輔くん、こんなに可愛いのに」

 私は大輔くんの頭を撫でた。サッカーをしているときは凛々しいが、それ以外だとやっぱりあどけなくてかわいい。タケルくんやヒカリちゃんも相変わらずかわいいけど、すっかりオトナになっちゃったからなあ。大輔くんの純粋さは、とても貴重。


「湊海ちゃんも可愛いよ!」

「ほんと? うれしいなあ」

「これは……!」

 すると伊織くんが、パソコンの画面を見て声をあげた。


「どうしたんだぎゃ? 伊織」

「見てください」

 そう促され、私たちは画面に目をやる。
そこには、デジタルワールドのマップがあった。ほとんどが白いエリアだが、その中心にだけ、ぽつんと黒いエリアがあった。


「こんなところに、ダークタワーが!」

「昨日までは、なかったはずだ」

「恐らく、昨夜のうちに作ったんでしょう」

「ここ、どんな場所なの?」

「デスバレー……。死の谷と呼ばれている所です」

「ずいぶん物騒な名前だなあ」

 死の谷だなんて、なんか不吉だ。


「なんにもにゃーところだぎゃ」

「何もないところに、なぜ?」

「デジモンカイザーは、何をするつもりなんだろう」

「ここを足掛かりにして、徐々に支配地域を広げていく可能性もあります」

「早めになんとかした方が良さそうだね」

「そうね!」

「行こう、大輔くん!」

 私たちが後ろを振り向くと、大輔くんと京ちゃんは先ほどと同じ姿勢で固まっていた。


「早く、どっちかに、決めてくれぇ……」

 大輔くん、やっぱりあなたってとてもいい子。







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